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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【サマーセミナー「サイエンス・コミュニケーション」を終えて】

2000年9月1日

 8月24、25日の2日間、BRHでサマーセミナーを開催しました。テーマとなった「サイエンス・コミュニケーション」は、日本ではあまり知られていない言葉ですが、いわゆる「科学を伝える」活動を総称してこのように言います。つまり、私たちSICP(Science Communication and Production)部門で行なっている様々な活動(機関誌の発行、展示やビデオの制作、イベントの開催など)が、まさにその具体例です。
 今回のセミナーは、こうしたサイエンス・コミュニケーション活動の舞台裏を館外の人にも見てもらおうと計画したものです。参加者は、生物学の研究に携わっている大学院生を中心に27名。サイエンス・コミュニケーションに興味があるのだけれど、これまではこのテーマでセミナーが行なわれたことがほとんどなかったので是非参加したいと、関東や島根、広島などの遠方からわざわざ来てくれた人も、多数いました。
 私を含む5人のスタッフと大学院生の入沢さんが、雑誌、ビデオ、展示、インターネットのサイエンティストライブラリーなどについて、制作の過程や苦労を具体的に話したあと、参加者の意見を聞くという形で進めました。意見の中には、「サイエンス・コミュニケーションの重要性を再認識した」というものや、「『文化としての科学』という考え方に共感する」といったものから、「具体的作業内容はわかるが、全体として何を目指しているのかがわからない」「ひとつひとつの制作物はだれを対象に作っているのかわからない」といった批判まで、いろいろなものがありました。
 そうした多様な意見を聞かせてもらい、まず感じたのは、「もっとこのような機会をたくさん持った方がいいな」ということでした。というのは、雑誌にしても展示やビデオにしても、何かを作るという具体的な作業自体に多くの手間と時間がかかる。ところが、そうであるがゆえに、何を、何のために、誰に向って作るのかを、つい、あいまいにしながら仕事が進みがちになります。こうしたセミナーで、改めて自分の考えを他人に伝えようとしたり、参加した人から「誰に向って作っているのですか」と質問を浴びせられることによって、考えを深めるきっかけができるのです。積極的に意見を言ってくれた若者たちに感謝したいと思います。
 とは言え、意見を聞くということは、必ずしもすべてを鵜のみにしたり、批判に対して答えを出そうということではありません。一般論として、自分で具体的なものを作ったことがないと、「どうして、もっと面白いものが作れないの」とすぐに言いがちですが、「じゃ、あなたなら何を、どう(具体的に)見せますか」と切り返すと、必ずしも納得できる答が返ってくるわけではない。また、「対象に応じて入門的なものと、高度なものを両方作ればいいではないか」という意見はもっともですが、5人のスタッフで、各制作物を1年に1〜数作品しか作る余裕のない状態で、果して異なるレベルに応じた複数のものを作ることができるのかは疑問であり、当面は「生物学に自ら関心を持つ、不特定多数の人々」を対象に制作を進めることになりそうです。
 とにかく、いろいろなことを考えさせてもらった2日間でした。今回は、スケジュールがきつく、議論をする時間が十分に取れませんでしたが、次回はもっと余裕を持って、しっかり議論ができる会にしたいと思います。
[加藤和人]

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