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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【伝わるのは何?】

2000年4月17日

 昨日、京都の古い商家を訪ねました。そこのご主人と館長との対談は、『生命誌』28号に掲載予定ですが、お家の佇まいに、またもや京都の奥深さと今も生きている古い歴史を感じてしまいました。
 今は、財団管理となったそのお家に、ご家族が暮らしながら維持していらっしゃるのです。江戸時代後期に呉服問屋を創業し、関東にまで販路を持つ大きな商売をしながら、熱心な本願寺門徒として本山勘定役も勤めるなど、繁栄した歴史を物語る、京都でも最大規模の町屋です。
 表通りに面した格子戸をあけ、暗がりの中に入ると、そこは店舗だった表屋、その奥に大きな母屋が石畳をはさんで繋がっています。いくつもあるお座敷、お茶室、続き部屋となった仏間、後に増設された洋間、二階部分まで吹き抜けた台所など、屋内だけでも迷路のように迷ってしまうくらいです。さらに、周囲に配された前栽、中庭、奥庭、町中にこんな「植物園」があったのかとびっくりしてしまいました。
 こういう古い歴史的なお家の方達の常として、その価値を誰よりもわかっているからこそ、それをどう維持していくかという大きな問題を抱え、とてもたいへんな思いをなさっていることは想像に堅くありません。
 ご家族のお話の中に、「もの」や「かたち」として残していかなければ、いくら語り伝えよう、書き伝えよう、と思っても伝わらないから、おっしゃっているのを聞いて、継承していく強い意志を感じるとともに、本当にそうだなあ、と思いました。
 当代の当主は、家業を仕事として継ぐことはなく、フランス文学を志して既成の専門の枠では名付けようのない多くの著作のある著名な方ですが、そのお仕事の背景に、代々受け継がれた文化や、お庭の植物や昆虫に触れる、こういう暮らしがあったのだということをまさに、そのお宅を見せていただくことで、感じることができたのです。
 「もの」や「かたち」でしか伝わらない.....。ふと、「進化」ということばが頭に浮かびました。さまざまな形をした生きものたち。うん、こんなにたくさんの生き物たちが今こうして生きているから、遠い昔のことを辿っていけるのだな、となんともあたりまえのことですが、妙に感慨深いものがありました。
[高木章子]

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