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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【アサギマダラが飛んだ】

中 秀司

皆さんは「アサギマダラ」という蝶をご存じでしょうか。

マダラチョウは熱帯に多くの種類を持つ仲間で、東南アジアだけでも何十種類も生息しています。
日本には、アサギマダラを含めて8種類のマダラチョウがおり、南方から迷い込んでくるものも含めると20種類以上の記録があります。
そのうち、唯一アサギマダラだけが本州に進出しており、東北地方をその北限としています。

このアサギマダラは、もともと熱帯を起源とするためか、寒さにとても弱い性質を持っています。
ですが、最近になって、どうやらアサギマダラは寒さだけでなく暑さにも弱いことが明らかになってきました。
では、寒いのも暑いのもダメなアサギマダラはどのように生活しているのか。驚くべき事に、渡り鳥のように日本列島を北へ南へと移動しながら世代を繰り返すことが分かっているのです *1
アサギマダラが渡りをすることは、採集した蝶に翅にペンでマークをして放す「マーキング」によって明らかになりました。
今では秋に行われる北東→南西への渡りを中心として、非常に多くの記録が蓄積されており、アサギマダラが季節ごとにどのような移動を行っているかが解明されつつあるようです。
中には、東北地方から南西諸島に渡ったものや、台湾から日本へ渡ってきたものも記録されています。

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去る10月15日、当館にて第二回実験室見学ツアーを開催しました。
私は4階にある「Ω食草園」の案内担当だったため、食草園の説明や展示を準備しておりました。
食草園の案内には、私のほかに尾崎ラボの学生たちも手伝ってくれることになっていたため、彼女たちともどのような展示や案内をするのか話し合ってきました。
その中で、修士2年の山田さん(12/1のラボ日記参照)から「芥川にこの時期見られる蝶を展示しましょう」という意見を頂きました。
この時期、高槻市中心部を流れる芥川のほとりには、キク科のミズヒマワリ *2という植物が白い花をつけます。この植物の花には、ピロリジジンアルカロイドと呼ばれる特殊な化学物質が含まれますが、アサギマダラはこのアルカロイドにとても強く誘引されるため、ミズヒマワリの花が咲く季節になると、どこからともなくアサギマダラの成虫が芥川にやってきます。この時期はアサギマダラが南へ帰る時期にあたり、都会でもときおりアサギマダラの姿を見ることができます。
果たして、私たちは展示のためにアサギマダラを採集しに芥川へと向かったのでした。

(採集の顛末記は省略。てんやわんやでした)

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15日は朝から良い天気だったのですが、残念ながら風が強く、また気温の低い日でした。
私たちは食草園に人が入れる大きさの観察用ケージを作り、この中にアサギマダラなど近所で見られる蝶を放す予定でしたが、風に振り回されて午前中一杯を設営に使ってしまいました。
正午過ぎから何とか風が収まってくれて、ケージ内に放した蝶たちもひらひら飛んでくれるようになりました。

運動会シーズンだったにも関わらず、Ω食草園の見学には、子どもたちを中心に多くの方々が来訪してくれました。
観察用ケージも概ね好評で、子どもたちはケージの中に入ってアサギマダラやアオスジアゲハなどと遊んでおりました。
ケージに放したアサギマダラは、見学会終了後に私たちがマーキングして放す計画だったのですが、総務の伊藤部長の提案により、来てくれた方々にマークしてもらってその場で放すことになりました。
大急ぎで油性ペンを用意し、マーキングの方法 *3を大写しにコピーして、来てくれた子どもたちに1頭ずつマークしてもらいました。
マークされたアサギマダラは、Ω食草園に放たれました。蝶たちは食草園をくるくると回った後、大空へ飛び立っていきました。 (1頭だけしつこく食草園に残っていたのですが......。宇戸口さん(9月1日のラボ日記参照)が放した蝶でした)


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それからひと月ほどたった頃、私のもとに一通のメールが届きました。
差出人は三重蝶友会のN氏。15日のマーキング記録を、公式記録として報告してくれた方です。

メールの内容は、なんと、たった6頭放しただけのアサギマダラのうちの1頭が、遠く離れた地で再捕獲された旨を知らせるものでした。
再捕獲地点は三重県御浜町。高槻からは100km以上も離れたところでした。
再捕獲されたのは10月22日なので、放してからたった7日で移動したことになります。
その時の詳細な記録は、次の通りでした。
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標識: 大 カイ 1
性別:
標識日: 2006年10月15日PM4:00頃、
標識地: 大阪府高槻市紫町・JT生命誌研究館構内
標識者: 岩本 開(かい)くん
備考: 2006年10月13日、大阪府高槻市殿町・芥川河川敷
ミズヒマワリで吸蜜中の6♂を採集
採集者は山田 歩・宇戸口愛・中 秀司の3名
    ↓
再捕獲日: 2006年10月22日
再捕獲地: 三重県御浜町横垣峠
再捕獲者: 杉下賢史
移動距離: 南南東121km
日数: 7日間
備考: KS474 10/22 ヨコガキ 標識追加のうえ放蝶

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再捕獲された1頭は、新たにマークを追加されて放されました。
その後の追加報告は届いていませんが、今頃は南の島で優雅に舞っているのかもしれません。


*1 : 興味を持たれた方には、むし社『旅をする蝶 アサギマダラ』をお勧めします。
*2 : この植物は外来生物法によって移動や飼養が禁止される「特定外来生物」に指定されているため、家庭で栽培することはできません。
*3 : アサギマダラを調べる会をご参照下さい。



[昆虫と植物の共進化ラボ 中 秀司]

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