1. トップ
  2. 語り合う
  3. 【再び海南島へ】

ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

バックナンバー

【再び海南島へ】

蘇 智慧

 2月下旬から3月初めにかけて、昨年の夏に続いて再び海南島を訪れました。目的は勿論イチジクとイチジクコバチの材料収集です。一回目の海南島訪問の時は、西も東も分からず案内してくれた海南師範学院の先生方々について山と森をすたすた回っただけのような気がします。幸いなことに、天候に恵まれトラブルもなく、それなりの材料は手に入りました。しかし、一つ欠けてはいけないことが欠けていました。それは観察のことです。
 一回目の経験を踏まえて今回はどこで何が採れるのかなどについて、随分余裕ができました。それに海南島に行く中間地の広州にある中山大学昆虫学研究所の大学院生 (M2) 一人(写真1)が、彼の指導教官から是非同行させてくださいとの依頼があり、今回の採集旅行に加わりました。その大学院生はテントウムシの形態分類を一年かけて行い、これから分子系統解析をやろうとしているところで、勉強も兼ねて私の採集を手伝ってくれました。海南師範学院の教授の先生方々に色々指示するのは、ちょっと気が引けますが、学生さんならさすがに何でも頼みやすいです。イチジクとイチジクコバチの採集は実に作業の多い仕事で、野外では、イチジクの木を見つけると、まず産地名(行政地名)と正確な場所(行政地名がカバーできない地方名、標高、目印になるような建物や川の近くとかなど)、周囲の環境、木の状態、花の咲き具合、コバチの有無などを記録、それから、写真撮影、最後に葉、花嚢、コバチを採集、ラベルを書いてそれぞれの容器に入れて、やっと一つのサンプル採集が終わります。しかし、ここで終わったのは野外の作業だけで、宿泊所では野外以上の時間をかけてサンプルの処理をしなければなりません。DNA用の葉サンプルの作成、一個一個の花嚢を開けて一匹一匹のコバチをピンセトでアルコールの容器に入れ、それから、イチジク種の同定確認に備え、葉と花嚢のマクロ写真を撮影、植物の乾燥標本も作ります。ホテルの明かりが暗く、フロントからしばしば電気を借りていました。
 中山大学の学生さんが同行してくれたお陰で、私は今回イチジクを観察する時間が大分取れました。一つ興味深いことは、一斉に開花するイチジクは花嚢が成熟している状態(コバチが出る状態)の木の隣、或いは近くに、ちょうどそのコバチを受け入れる状態の花嚢が付いている木が生えています。一方、単独で生息しているイチジク種は同じ木に若い花嚢から成熟花嚢まで色んな生長状態の花嚢が付いています。つまり、同じ木の上でイチジクコバチのライフサイクルが回ることが可能になります。これは進化の過程で獲得した植物の知恵でしょう。もう一つ面白いことはガジュマルの多彩なバリエションです。日本産のガジュマルの種内変異がほとんど見られません。海南島産のガジュマルは、葉にしても花嚢にしても様々な変異が観察することができます(写真2-4)。これらの変異はガジュマルの種分化をもたらすことになるのでしょうか。海南島産のガジュマルとそのコバチの遺伝的変異も調べていきたいと思います。


写真1:採集に同行した中山大学学生 (Kebo Deng)。
石上榕 (Ficus glaberrima) イチジク下の記念写真。
写真2:奄美大島のガジュマル 写真3:海南島海口市のガジュマル
写真4:海南島雲月湖のガジュマル


[DNAから共進化を探るラボ 研究員 蘇 智慧]

ラボ日記最新号へ