研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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一般に動物は動くもの、植物は動かないものという認識がある。もちろん植物も日々生長し、茎や枝を伸ばす、という意味においては動いているし、また、オジギソウやハエジゴク(ハエトリソウ)など何かが触れるとシュッと素早い動きを見せる植物があることは多くの人がご存じのことである。しかし、それ以外にも植物には動きがある。
すっかり紅葉の葉も落ち、花屋さんぐらいでしか花を見ることができなくなってしまったが、あと一ヶ月もすると花を咲かせる植物がある。京都(私の自宅)では1月下旬から咲き始めるロウバイである。とりわけ雪をかぶったロウバイの黄色い花がすがすがしい香りを辺り一面に漂わせている空間にいると気持ちが落ち着き、やがて確実にやって来る春を想像してしまう。ロウバイの花は下向きに咲き、また、花がカップ状のため、普通に見ていては花の中は見えない。一度、真下からのぞき込んでいただきたい。実はおしべが動くのである(といってもオジギソウのようにシュッとではないが)。数年前に観察したところ(写真)、開花したときは未熟なおしべは水平方向に向いており、めしべは受粉可能の状態にある(確認したわけではないので、たぶん)。つまり、このときは機能的にメスの状態にある。開花後2~3日かけて、だんだんとおしべは下を向くようになり、同時に葯が裂開して花粉が出てくる。下を向いたおしべはめしべを隠すようになり、また、おしべの葯はめしべに対して反対側に付いているため、自分の花粉がめしべに付くことはない(ように見える、確認してないので断言はしない)。つまり、ロウバイの花は開花したときはメス(雌性期)で、その後オス(雄性期)へと変化していくのである。
植物の花の多くは、動物と違い、オス(おしべ)とメス(めしべ)が一緒になっている(両性花)。しかし、おしべの花粉が同じ花のめしべに(自家)受粉するのは、生物学的にあまりいいことではない。そこでロウバイの花は、おしべとめしべの成熟を時間的にずらすことと、空間的にずらすことにより、極力、自家受粉を避けようとしているのである。このようにおしべやめしべが動く花はコブシなどのモクレンの仲間やシキミでも見られる。
ロウバイは中国原産で、もともとの自生地は雪が降るようなところではないかもしれない。異国の地とはいえ、花粉を運んでくれる昆虫がほとんどいないだろうに、けなげに雪の降るなかで、一生懸命に生きている(動いている)姿を見て、やがて来る春に植物たちはどんなドラマを繰り広げてくれるのだろうかと胸を膨らませるのである。
ロウバイの季節はもうすぐである。
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左側が開花直後の花(ほんとはおしべはもっと花弁の基部に密着している)。中央に見にくいが細い糸状の花柱(めしべ)が数本ある。数日後、右側のようにおしべが花の中央に集まり、めしべを隠し、葯が裂開して花粉を放出する。 |
[DNAから共進化を探るラボ 研究員 東 浩司] |
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