研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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私は今年4月から奨励研究員として「ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ!!」の一員となりました。ここBRHにきて最初の仕事は「ムカデ採り」。もちろん、研究館にムカデが出現しそれを退治する役目ではなく、研究材料としての採集です。
ムカデは節足動物門の多足類に属し、クモ(鋏角類)やハエ(昆虫類)、カニ(甲殻類)などとともに節足動物門を構成する重要な分類群の一つです。これら節足動物内の系統関係については、広く議論されていますが、鋏角類が祖先的であり昆虫類が派生的であることは多くの研究者で同意が得られており、多足類はそれらの中間に位置します。したがって多足類を研究することにより、祖先的なタイプから派生的なタイプへの進化の変遷を知ることができますし、多足類に関する新たな知見が加わることにより、節足動物内での系統関係に一石を投じる可能性もあるのです。
私が暮らしている高槻周辺ではムカデが比較的多く生息しているようです。トビズムカデと呼ばれる体長10cm前後の大型のムカデが2〜3時間で20個体ほど採集できました。このムカデに咬まれると非常に痛いと聞いていましたが、軍手をはめての「手づかみ採集」では幸い一度も咬まれることはありませんでした。どちらかというとムカデのほうが私を恐れ慌てふためいて逃げていくようでした。ひょっとしたら咬まれるなんて嘘ではないかと思ってしまう。そこで、指の先をちょっと咬まれてみた。激痛である。急いで毒を吸い出し、缶ジュースを買って冷やしながら薬局へと走り、抗ヒスタミン系の軟膏を購入し咬部付近へ塗りました。シビレるような痛みは1日ほどでとれましたが、2週間ほどむずがゆさが残りました。咬まれたくなければ、いじめないにこしたことはないようです。
ムカデに咬まれたら、小さい頃にクモを捕まえて遊んでいて咬まれ、痛い思い(ムカデほどではないが)をしたことを思い出しました。調べてみると、ムカデとクモの『牙』は似て非なるもののようです。ムカデの『牙』は、専門用語では顎肢とよばれ、もともと脚だったものが進化の過程で牙状へと特殊化したようです。なるほど、よく見るとムカデの『牙』は歩脚と同じように分節しているのがわかります。一方クモの『牙』は鋏角と呼ばれる鋏状の器官が特殊化したもので、ムカデの顎肢とは起源が異なり分節も見られません。しかし、どちらも獲物を捕らえたり、身を守ったりするために特殊化した器官であり、毒を注入します。
今回ムカデに咬まれることで、幼い頃の記憶が呼び覚まされ、異なる生物(今回はムカデとクモ)がそれぞれ独立して同じような器官を獲得したことに気づけたのはラッキーでした。
たまにはムカデに咬まれてみるものです。
[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 研究員 山崎一憲]
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