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研究館より

ラボ日記

2020.03.02

実験動物

生物系の研究者は実験動物(あるいは細胞)を飼育しているわけですが、実験動物(細胞)に飼育されていると感じられることが多々あります。「飼育」という言葉が適切だとは思いませんが、実験を成功させるために実験動物(細胞)を機嫌よく育てなければならないわけで、そのために土日や昼夜を問わずにその動物(細胞)の世話をしなければならないことが多いのです。ちょっと手抜きをすると動物(細胞)は機嫌を損ねますから、実験そのものが行なえなくなることも珍しくありません。

長い間、両生類を用いて研究をしてきました。これもなかなか大変で、卵を産んでくれなかったり、産んだ卵の質が非常に悪く、翌日には全滅しているということもあります。だから、いい卵を産んでもらうための飼育を心がけるわけです。昨年からプラナリアを使い始めました。切り刻んでも再生する「不死身」の生き物として知られていますので、両生類よりは使いやすいと思っていました。しかし、ここにも落とし穴が待っていました。動物を大きく育てたり個体数を増やすのが大変なのです。実験に用いるには一定の大きさが必要なのですが、実験に使い始めるとその大きさの個体が必然的に減ってきます。実験は週一で行なっていますので、次の週に使えるプラナリアは前の週よりも気持ち小さいものになってしまいます。これが繰り返されていくわけで、もう自転車操業といった研究体制を無理やり動かしている状況です。

原因は簡単です。プラナリアはかなり大きく育ったところで自分自身を「自切」して数を増やしますので、自切するレベルまで大きくなる前に、大きめの個体を選んで実験に用いているのですから、個体数は増えることなく個体の大きさはどんどん小さくなっていくという、極めて分かりやすい状況が繰り返されているためです。

いままでは「無理やり」実験を行なっていましたが、そろそろ行き詰まりが見えてきたので、ここで考え方を改めて、数ヶ月を棒に振ってもいいから、安定的に供給できるレベルまでしっかりとプラナリアの数を増やしてから今後の実験に臨もうとしています。今はまず、個体を3〜4個に切断して小さなプラナリアの数を増やし、それに毎日餌をあげて大きくしていこうという地道な作業を行なっています。

もともと両生類で温めたアイデアを具現化するために適切な材料としてプラナリアを始めましたので、やりたい実験は山のようにあります。ただでさえ少人数の研究室なので行なえる実験が限られる中、いまは動物が育つのを待つという禅の修行のような日々が続いていますが、とにかく深く思考することで時間を有効利用して次に繋げようと思っています。

橋本主税 (室長(〜2024/03))

所属: 形態形成研究室