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研究館より

表現スタッフ日記

2024.08.16

食草園のこころ

   JT生命誌研究館の屋上で、チョウの吸蜜植物とその幼虫が食べる葉を育てる食草園の始まりは2003年のこと。チョウが食草を見分けるしくみを探る昆虫食性進化研究室の研究の表現として、当時の中村桂子館長の発案による「昆虫と植物の関わりそのものを伝える」展示です。そのお庭の手入れをする仕事が、実は、私が研究館に着任して担当した「表現を通して生きものを考える」初めての仕事になりました。

 多くのアゲハチョウが食草とするミカンを庭の中心に植えましょう。ということは当初より決まっていましたが、そのほかは、当時の仲間と試しながらいろいろと……以来、植物も、担当者も、20年の歳月を経て代替わりしつつ……人と虫と草木と、土と水と、お日様と、四季の巡りのもと繰り返される寒暖の変化を経て、それぞれが、それぞれの適材適所に生存圏を見出しつつ、コンクリートに囲まれたわずか12平方メートルの庭に「研究館の食草園」らしい植栽が根づいて来たように思います。チョウの食草という切り口から、改めて、身の周りの自然を捉え直すきっかけとなるような(珍しくない)植物を育てていると、ここはビルの4階なんですけれども、ほんとうに、チョウチョをはじめいろいろな生きものがやって来ては、それぞれの生態を観察させてくれる、りっぱな研究の場になっています。

 食草園を始めた2003年は、研究館創立10周年でもあり『蟲愛づる姫君』をモチーフに研究館の生きもの研究を物語る表現にも取り組みました。「愛づる」とは、「時間をかけて生きものに向き合う、生きものの時間に寄り添って研究する」という研究館の活動の基本を示す言葉でもあります。

 研究館の食草園は、今は昔、およそ千年前の平安京で、「かは虫の心ふかきさましたるこそ心にくけれ」と、将来、美しいチョウに羽化する姿を思い浮かべ、幼虫を手のひらにのせて慈む大納言のお姫様の物語を今に伝える庭でもあります。

[ 2003年度 生命誌年刊号『愛づる』イントロダクションより ]

   今週末、8月17日(土)に、記録映画「食草園が誘う昆虫と植物のかけひきの妙」の鑑賞会&食草園ツアーを研究館で行います。今年の上映プログラムでは、本作がきっかけとなり、実際に市内の小学校で取り組んだ食草園づくりの短編記録映像も上映します。当日のプログラムはこちらです。ご来場をお待ちしています。