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研究館より

表現スタッフ日記

2020.04.15

コウモリとウイルス

 新型コロナウイルスの感染を防ぐため、生命誌研究館の展示ホールは2月の末からお休みになりました。3密になることはあまり多くない研究館ですが、お出かけも控えていただきたいのでどうかご辛抱ください。
 さて、新型コロナウイルスですが、コウモリのウイルスがヒトに移ったことが、ウイルスのゲノム比較からわかりました。実は、SARSやエボラなど新たな感染症のウイルスもコウモリが起源とされます。不思議な感じがしますが、開発によって野生動物の住処が奪われ、ヒトと接触する機会が増えることが、新興感染症が生まれる原因です。コウモリは、種にして哺乳類の4分の1(一番はネズミなどの齧歯類の約半数です)もおり、空を飛ぶので行動範囲が広く、すべての大陸島嶼に住んでいます。実際、私たちが最もよく見かける野生の哺乳類(ペットではなく)はコウモリでしょう。夕暮れどき太陽が沈んだあたりで空を見上げると街中でも少なからずコウモリが羽ばたいているのを見かけるはずです。つまりコウモリはヒトにも身近な生きものなのです。
 コウモリがなぜ病原ウイルスを仲介するかについては多くの研究がされています。ウイルスが感染すると細胞がインターフェロンをつくり免疫のスイッチが入ります。ヒトではインターフェロンがはたらくとウイルスに対抗するための様々な反応が起こり、その中に発熱や関節痛などの病気の症状があります。つまり悪さをするのはウイルスではなく、実は免疫のはたらきだといえます。一方、コウモリの細胞は、いつもインターフェロンをつくっており、ウイルスに感染しても病気の反応がでにくいらしいのです。ウイルスを媒介するコウモリのゲノムから、コウモリは自然免疫に関わるI型インターフェロンやナチュラルキラー細胞受容体などの遺伝子を余分にもっていることがわかりました。すると強い自然免疫でウイルスを抑えこみ細胞へのダメージを防ぐ間に、それに耐えて素早く増殖するウイルスがでてきます。このコウモリで鍛えられたウイルスが、コウモリほど強い免疫をもたない生きものに移ると危険な感染症となるようです。
 ウイルスは怖い敵のようにも言われますが、自分から増えることも移動することもできません。宿主である生きものがウイルスを取り込み、増やし、運んでいます。コウモリがヒトと出会うことでCOVID-19が発生したように、ヒトとヒトとの接触が、今は病気を広げてしまいます。普段私たちは誰かのためになにかしたいと思っても、実際にすること、それを伝えることは難しいですが、マスクがお互いを思う気持ちを表すなら、昨今のマスク騒動を見直してもいいかなとちょっとだけ思います。
 
お家で生命誌アーカイブ
コウモリ骨の形からコウモリの不思議に迫る
100号 ほ乳類の形から多様性と進化を知る

ウイルスに対するインターフェロンのはたらきを知るなら
91号リサーチ ウイルス感染細胞がたどる生死の分かれ道


スリランカの公園にいたオオコウモリたち