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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2020.02.17

新幹線で見る社会の変化

27年間毎週東海道新幹線に乗って東京と京都の間を往復してきました。時速300Km近くで走る列車が3分置きに発車するのが日常になっているのは、改めて考えるとすごいことですね。分速5Kmとすると空から見ると15Km離れて列車が走る様子が見えるのだろうななどと思いながら乗っています。ところで、27年の間に列車の中の様子は変わりました。

通い始めた1990年代は、いわゆるバブル崩壊の時ですが、それでも出張と思われる人々にはよく出会いました。ほとんどが男性で、しかも三人連れが多かったのです。夕方には缶ビールとおつまみを抱えて乗り込み、楽しそうに語り合っていたものです。一仕事終えて帰る解放感でしょうか。でも話はやはり仕事のこと・・・なかにはかの有名な肉まんを頬ばりながらという人もいて、無関係な私もつい微笑んでしまうような雰囲気でした。いつの頃からかそれがまったく消えました。ほとんどの乗客が一人です。コンピュータを出す人、スマホを見る人・・・仕事の続きのような雰囲気の人もあれば、ゲームや映像を楽しんでいる人もいますが、声はしません。そして、ビールもなくなりました。連れ立っての出張などする余裕はないというのが今の社会なのでしょうか。ビールと会話よりコンピュータで課題を解決する方向は能率的でしょうけれど、あまりよい方向には思えないのですが。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶