SYMPOSIUM
質問タイムオンラインで語り合う
オンラインで語り合う ―質問タイムより―
オンラインライブ配信で行われたシンポジウムには、全国からチャットで質問が寄せられました。その中から5つを取り上げ、当日の質問タイムで、2人の演者に回答をいただきました。
大隅
なんとかは要らないからとか、なんとかは役に立つからというように考えるのでなく、高校で学ぶことぐらいは、当たり前のこととして、一通りクリアしておいて欲しいなという風に思います。専門性に関しては、中には、「私は、小学校の時から植物の分類学を目指してました」という異能の人もいますけれど、別に、その人なりに、ハッとある時、これ面白いなと思ってからスタートするのでよいわけで、自分が科学者になるために、何が必要かが見えている場合というのは、少ないと思います。研究の世界に飛び込んでみて、自分で面白い課題を見つけようというくらいのスタンスでいいんじゃないかなって私は思います。
大隅
うまくいかないと落ち込むのは当たり前だと思います。むしろ、うまくいかないのが普通だと居直っていいと思います。答えがわからないことにチャレンジするのが科学ですから、うまくいくことのほうが少なくて、長い研究生活の中で、何回か自分が輝いた瞬間があれば、それが励みになって、十分研究者としてやっていけるんじゃないかって思います。
永田
実感として、達成感を感じることって少ないですね。良い結果が出て喜んでも、すぐ、このデータはなぜなんだ? と次の問題が出てくる。つまり、いつまでたっても、自分でやり切ったと思えないところも、実は魅力の一つなのかもしれない。
大隅
でも、やはり達成感も知って欲しい。科学って、こんなに面白いのかという経験を、なるべく若いうちにして欲しいとも思います。
大隅
永田さんを見ていると、和歌の世界があってうらやましいですね。私はぐうたらしていることが多くあまり参考になりませんが、他に好きなことがあればそれをやったらいい。でも研究が楽しければ、リフレッシュなしでも十分やっていけるかなと私は思いますけれど。
永田
僕も、あまりリフレッシュのためにと考えたことはありませんが、馬鹿なことをやるのは好きで、さっき話に出た田中啓二さんと旧東海道を歩いています。田中さんが日本橋から、私が三条大橋から歩いて、真ん中の袋井という宿で出会いました。その時にも、研究仲間がわざわざ袋井までお祝いに来てくれて、その仲間というのは、大隅さんも含めて「七人の侍」と呼ばれていますが、この七人は、皆、素晴らしい研究をしておられる人たちで、人生50代を過ぎて、なんでも話ができるいい友人です。これもサイエンスを通じて、世の損得や利害を離れ、心を通わせ合う友を得たわけで、これも大事なことだと思いますね。
大隅
お酒を飲みながらでも、なんでも話ができる時間というのは大事で、そういう中から思い掛けないヒントも出てくる。研究室での正面切った議論も大事ですが、そういう遊びの時間の中にも、ハッとする瞬間がありますね。
大隅
私は、随分、わがままを通して、それを周囲や家族が理解してくれたおかげで今日があると思って、とてもありがたいことだったと感謝しています。人生には、仕事と家庭と両面あるということでは、やはり、どういう人生の伴侶に出会えるかということも大事だと思います。
それと、最初の質問で、めげないでということについてですが。私の場合は、これなら自分でやれるという自信を持てるものが、研究の他にありませんでしたから、いつまでも、この仕事にしがみついていられたと思っています。逆に、なんでも器用にこなせる人のほうが却って大変だろうと思います。
それに、めげそうになった時でも、必ずや道はあるものです。一つの方法でなんとかしようと固執せずに、視点を変えて他の切り口から探ると意外に答えが見えてくる、ということもたくさんあります。一人で抱え込まずに、いろいろな人と議論をしながら進めることが大事だと思います。
永田
大隅さんのところは、奥さまも研究者で、オートファジー研究にも大きな貢献をしてこられました。お二人共に研究者というのは、しんどい面もあるかもしれませんが、お互いの仕事への理解という意味では、羨ましいですね。
大隅
論文は数の問題ではないと思います。私たちの分野で、1年に論文を10本なんてあり得ませんし、5年に1本でもいい論文が出せたらその人は研究者として立派だと思います。ところが今、残念なことに、大学や研究所では、評価が数値化されなければならないということで、研究に携わるいろいろな人が、がんじがらめになってしまっている。研究にはある程度の費用が必要なので、その研究費を獲得するために、皆、大変な努力をせざるを得ない状況があるわけです。
しかし、ほんとうにいい研究については、必要最低限の費用もポストも保障され、仕事に没頭できるという理想の実現に一歩でも近づきたいと思って、私の財団でも研究支援をしています。やっぱり面白い研究をしている人が一人でも二人でも増えていくことが、科学を豊かにすることにつながると思っていますから。やはり、その研究にどれだけオリジナリティがあるかということを、研究者も研究機関も、もっと真剣に考えて欲しいですね。
※この記事は、2021年9月11日(土)に開催したJT生命誌研究館・公益財団法人大隅基礎科学創成財団共催シンポジウム「生命誌から生命科学の明日を拓くⅡ」の内容から抜粋し、季刊「生命誌」の記事としてまとめたものです。