RESEARCH
ART in BIOHISTORY
絵巻-時間をみる
生物研究から膨大なデータが生まれている。これをどのように整理し、生きものの理解へつなげていくか、その方法を探すことが重要になっている。芸術表現の中に参考になるものはないか。古今東西、智恵の中に探ってみる。
絵巻 in ART
生物の教科書は言葉と図で書かれているが、言葉と図といえば絵巻物。絵巻物は物語や伝記などの文章(詞書/ことばがき)とその挿絵からなり、画面は紙を貼り繋いで大変長いため、今日では展示ケースに広げたものを移動しながら見ることが多い。しかし、本来は両手にとり肩幅程度に広げて鑑賞し、開いた部分を右手で巻き込んではまた左方へ広げる、という繰り返しで読み進めるものである。もともと絹や紙に書いたものを巻いて保存する扱いから生まれた巻物だが、中国から伝わった後、日本で独自の発展を遂げた。左方へ展開する横長い画面構成を、巧みに物語の時間表現に使ったところがとても興味深い。
長い物語は文字どおり長い絵巻となり、その動的で連続的な鑑賞法は物語の場面展開、時間推移を体感させる装置となって期待や余韻を増幅し、文学鑑賞の臨場感は格段に高まった。
日本人が物語絵巻に熱心だったのは、その「時間的世界観」ゆえと指摘されている(源豊宗『日本美術の流れ』1976)。時間によって季節は移ろい、一生が始まり終わる。物語や史実が絵巻物の時間性に託されて今に伝わり、過去・現在・未来を繋ぐ時、歴史を紐解きながら、私達は物語の延長に生きていると感じられる。
そこで生命の歴史物語、生命誌の基本を、絵物語、つまり絵巻で表現した。5000万種とも言われる地球上の生きものは、38億年ほど前に誕生した先祖から生まれた仲間である。多様な生物が、どのように生まれ、どんな関係にあるのか、それはまさに私達一人一人に繋がる物語だ。それを体感するため、「生命誌絵巻」は立体化にも挑戦した。天井まで見上げて楽しむ「立体系統樹」、ガラスの積層を透かして見ながら歩く「生命誌のお散歩」、館内4階まで地球誕生から46億年を駈け上がる「生命誌の階段」など、生きもののもつ時間を観たり感じたりできるしかけにしてある。生命誌絵巻の詞書は、研究が進むことによってまだまだおもしろくなっていく。見てわかるのは楽しい、そこで、多様さや複雑さ、全体を捉える表現を考え、これからも新しい絵巻を作っていきたいと思っている。
(きたじ・なおこ)
絵巻 in SCIENCE
「生命誌絵巻」
「立体系統樹」
「生命誌のお散歩」
「生命誌の階段」
展示「生命誌の階段」