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RESEARCH

中田先生に質問

編集スタッフ(鳥居)の疑問を中田さんにぶつけてみました。
以下は、中田さんから頂いた返答メールです。
わかりよいように、Q&Aを付しています。
興味のある方は、ご覧下さい。

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Date: Thu, 27 Jun 2002 13:58:24 +0900
From: "Tsutomu Nakada, M.D., Ph.D."
To: NOBUO TORII

鳥居様

Q.    熱対流の法則にしたがった形態形成のアイディアはどのように証明されていくのでしょうか?
A.    複雑系における証明は間接証明ですから、実際に脳の形態が熱対流にしたがっていることは「証明されている」ことになります。残念ながら、一般に「直接証明」を求める人が多すぎて、未だに「仮説」ということにしております。笑。

Q.    一体どういうきっかけで熱対流を思いつかれたのですか?
A.    ETV2002でも申しました、哺乳類が母胎内で安定して用いることの出来る、自己形成に利用可能な物理量は熱しかありません。その意味で、logical thinkingの結果だと思います。
実際に、熱対流で行われることを理解したのは、もう、10年以上前のことです。

Q.    発生は、脳に限らず、全てがマルコフ過程に沿って行われているのでしょうか?
つまり、Hox遺伝子などの調節遺伝子も、細胞同士がコミュニケーションをとるための分子の一つに過ぎず、実際に形を作っているのは、熱対流に見られるようなマルコフ過程に沿った自己組織過程(遺伝子に書かれていない自然の法則)だと考えてよいのでしょうか?
A.    その通りだと思います。

Q.    これからの発生の研究は、遺伝子の発現パターンの研究と形づくりにおける自己組織化の原理の研究が融合しなくてはならないと思っているのですが、それぞれの研究領域にいる研究者が互いに他を低く見ているように思えてなりません。一方は、「根拠が薄く、たいしたものを生み出さない机上の研究」と思い、もう一方は、「素過程だけみても何もわからないのに、わかった気になっている」というふうに思っているように感じますがいかがでしょうか。
A.    その通りだと思います。
貴兄のような人がどんどん増えていけば、素晴らしいと思います。
「学際性」は21世紀の科学のキーワードだと言いつづけ何年・・・それなのに「学際性という言葉がわからないから、その単語を使わずにレポートを書いてくれ」などと、何度も言われました。笑。
現代科学は、全体像を見ることができない人たちでいっぱいです。
それでは、脳は解けません。

Q.    話は変わりますが、私は英語が話せないのですが、私の脳の内側の領域は一体何をしているのでしょうか?
A.    一般の人にわかりやすいように、ごまかして書いてありますが、賦活に現れる部位が使われていて、その他の部位が使われていないわけではありません。機能局在とは複雑系におけるattractorのようなものであると説明しています。
鳥居さんの場合も僕の場合も第一言語が日本語ですからlingual gyrusを米国人のように言語機能に用いるようにtrainingされていないだけだと思います。視覚情報処理の一部として使っていることは、間違いないでしょう。

中田



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Date: Wed, 17 Jul 2002 19:27:26 +0900
From: "Tsutomu Nakada, M.D., Ph.D."
To: NOBUO TORII

鳥居様

Q.    以前頂いたメールの中に、「複雑系における証明は間接証明ですから、実際に脳の形態が熱対流にしたがっていることは「証明されている」ことになります。残念ながら、一般に「直接証明」を求める人が多すぎて、未だに「仮説」ということにしております」という部分がありますが、これはどういうことでしょうか。教えて下さいませんか。
A.    線形理論では、最終的にある条件のもとに出るべき結果がわかり、重ね合わせの原理が成り立つわけですから、証明は「直接」可能なことになります。ところが、複雑系では非線形理論ですので、結果はやってみないとわからないことになります。そこで、シミュレーションを含む、いくつもの実験系を組んで、その結果からそれらしい確率を想定し、ある一定の確率以上のものを「恐らくは真実であろう」とする以外、証明は不可能です。渦理論はその意味で、これまで行われてきたすべての脳に関する実験系(生理から行動学)までに適応できる理論です。従って、複雑系の中では証明済みとされるべきものです。(たまたま、合う確率は天文学的数字になります。)

量子力学そのものは線形理論ですが、量子力学などはすでにこの非線形の要素を含んでおります。例えば、Heisenbergのuncertain principleなどは、証明不可能です。量子力学の先にある、非線形理論が直接証明が不可能なことは、ご理解いただけると思います。

蛇足ですが。DNAそのものは線形ですが、DNAをbaseとして生まれてくる生体の機能は、非線形です。従って、 knock out mouseの実験を繰り返すことによって、やがて脳の機能が解明できるという考え方が、全く間違いであることは、 20世紀に証明されております。

ただし、病気として現れた現象を、knock out mouseで再現することは可能です。それは、系の行動が非線形であったとしても、同一条件下(他の parameterを全部 fixした状態)では「原因」と「結果」とに相関があることを意味します。

ただし、病気を起こしたgene欠損が、結果として失った機能を司るものと考えるのは間違いです。それを証明するためには、もっと多くの実験が必要です。たったひとつの correlateでは証明になりません。言い換えれば、その他のparameterが全部動いていないことを大前提にしているからです。

渦理論はその点、すでに、何十万という実験が行われていたと考えてよく、途方もない数のparameterの変化の組み合わせのすべてで成り立つことが判っている訳です。従って、証明ずみです。

中田



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Date: Thu, 18 Jul 2002 13:50:51 +0900
From: "Tsutomu Nakada, M.D., Ph.D."
To: NOBUO TORII

鳥居様

Q.    以前、シミュレーションを使えばどんな結果でも出せる(どんな形でも作れる)ということを聞いたことがあり、シミュレーションによる結果がどこまで信頼できるのか疑問をもっていました。しかし、そこには「一定の確率以上の」というのがあったのですね。

A.    理論的には何でも出来るという意味でしょう。
複雑系のsimulationは勿論、出来なければいけないわけです。この世の中に実存するものは、(人為的に作られたものでなければ)、すべて複雑系の自己形成の結果なのですから、それがsimulationできないことはありえません。
問題は、ある可能なparameterを設定して、実存する初期条件と境界条件で、同一のものがsimulateできるかどうかです。それが、可能ならば、確率的に、生体が同様な自己形成をしていることが「間接証明」できるわけです。何でもよければ、同じようなsimulationができるわけですが、そこに使われた条件が生物学的に実存しなければなりません。
この、「生物学的に実存する」という、大前提がいかに重要な条件であるかが、どうも、「物理屋さん」や「計算屋さん」にはご理解いただけないようです。その反面、simulationや複雑系の理論そのものが「生物屋さん」には理解してもらえませんが、笑。

これからは、どちらもきちんと判る人でないと科学は任せられません。

「学際性」は21世紀の科学に必須のkey wordだと言っていますが、「学際性のいみがわからないから、その言葉を使わないで、報告を書け」と何度もお叱りを受けました。笑。「複雑系」も「非線形」も使うなとのことです。勿論、それでは、なにもかけませんので、彼らの要求は何時も無視してます。

Q.    最近、分子生物学が植え付けた機械としての生き物のイメージは社会にどういう影響を与えているのかと時々思います。恐らく、生き物はそんなものじゃないという思いから、科学の世界でもゆりもどしが来て、複雑系の科学が再び脚光を浴びているのだと思います。複雑系の科学は、コンピュータを使うので一見生き物らしさから遠ざかっているようだけれども、本当は生き物をより活き活きと見せようとしている。これから、いろいろな意味で大切になってくる分野だと思います。
A.    鋭い!

中田

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