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BRHサロン

環境美術とからだのアンテナ

谷岡知子

現代建築は、一つ一つ場所もかたちも異なるが、いわば工業製品であり、施主も設計者も、その建築の用途目的に合う、機能的で合理的な空間を求めている。そのため往々にして、建築自体が空虚になる恐れが出てくる。そこで、改めて建築の意図を象徴する美術が要請される。それが環境美術である。

私は、建築のエントランスや外構スペースに環境美術を計画立案し、提案図に沿って、工房でガラスや陶による部分を制作、現場で施工・完成させる仕事をしている。

Ŝtuparo・シュトゥパーロ
memoro pri la maro kaj la ĉielo (海と空の記憶)

建築の中の美術というと、しばらく前までは特定の有名作家の作品が求められることが多かったが、近年は変わってきた。建物の真の用途やコンセプトを具体的に「体感」できる環境美術づくりが要請されるようになったのである。人は誰でも、身体に所属した視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚というアンテナを外に向けており、このアンテナが受信した回路を通して、精神や身体が楽しんだり、感激したり、悲しんだりする。そんな「体感」ができる場をつくりたいと私は思ってきた。

大阪の花博の跡地のコンクリートの大階段を陶片で再生させた。壊れてしまったもの、捨てられようとしている焼き物を再構成し、新しい価値に再生させようと思い、生命科学が解明した生物の構造や近くに生息する動植物などを陶片で描いていった。すると、花に蝶や虫が群がるように、子供たち、若者、老人たちが集まってきた。そして生物に対する新しい発見をし、なんでもない陶片がイキイキと語ってくれることを体験している。新しい自然空間の誕生であり、それは、芸術がもつ効果とほとんど同じと言ってもよい。このように意図どおり完成した時は本当に嬉しい。

(たにおか・ともこ/陶額堂代表)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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