Special Story
花が咲くということ
モノフィレア (Monophyllaea ) という植物がある。このモノフィレア、めっぽう面白い植物なので最近、研究材料に加えた。モノフィレアは属の名前でこの属に含まれる30種ほどのすべてが、学名のとおり(モノは1、フィルムは葉)葉を1枚しか持たない。じつはこの植物、種を蒔くと普通の双子葉植物と同様、発芽して2枚の子葉を開いてみせる。初めはきちんと揃っているのである。ところがその後、いわゆる本葉は一切できない。しかも、2枚の子葉のうち1枚はやがて枯れるため、残るは子葉1枚きりとなってしまう。残された子葉は成長を続け、大型の種類ではその長さが30cm以上にも達する。それでは花はどうなるのかというと、やがてこの残った子葉の一部に特別 な分裂組織ができ、ここから花が咲く。
じつはモノフィレアが属するイワタバコ科は、もともとその気があったようだ。鉢物で人気のある同じ科のセントポーリア属も、2枚の子葉が不均一な成長をするが、その後、普通 に本葉を作る。一方、同じ科のストレプトカーパス属は、子葉が不均等に成長する点で共通 するが、本葉の出る種と出ない種とがある。つまり、本葉を欠くことと子葉が不均等な成長をすることは、必ずしも密接につながっているものではなく、このモノフィレア、イワタバコ科の中でも特殊化の進んだ属であるらしい。
この植物を入手して、私がまず調べたことは2枚の子葉の間でその運命が違うのは生まれつきなのか、という点である。結論をいうと、そうではないようだ。なぜか。第一に、2枚の子葉は発芽直後の時点では区別 がつかない。さらに、個体ごとの個性を観察してみると、早々と片方の子葉のみ大きくする個体もあれば、両方の子葉をいつまでも同じように大きくし続ける個体もある。どうやらこの2枚の子葉、発芽当初は同等の能力をもっているのだが、その後、どちらが大きくなるか互いに競争する過程で、勝ったほうが相手を押さえ込んでしまうものらしい。このとき何が起こるのか。目下、その押さえ込みの仕組について調べている。
①モノフィレアの群生。
②子葉は2枚そろっている。青く染まっているのは核。
③花を付けたモノフィレア。
④こんなに大きくなるモノフィレアもある。スケール役は東京都立大学の瀬戸口浩彰氏。
(写真①~④塚谷裕一 、②以外はマレーシアの調査旅行で撮影)
(つかや・ひろかず/東京大学分子細胞生物学研究所助手)
※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。