Special Story
花が咲くということ
花序、つまり枝上に花がどのように配列しているかは、植物の種を特徴づけるもっとも顕著な形質の一つである。たとえば、キクとタンポポの花のつき方をみれば、この2種が同じ科に属するのも納得できる。また逆に、近縁の種を分類するときに、花のつき方が指標になることも多い。このように花そのものの形と同様、花序の形はわれわれが種を認識するときの大きなよりどころとなっている。
花序の中で花序軸の先端に花を着ける(これを頂花と呼ぶ)ものを有限花序、そうではないものを無限花序と呼び、多くの花がどちらかに大別 される。しかし、さまざまな科でその中に有限花序と無限花序とを持つグループがあることから、この形質は進化の色々な局面で独立に獲得されたものと 考えられている。しかし、有限花序と無限花序のどちらが先に出現したかなど、まだわかっていないことが多い。
野性型のタバコは頂花から花が咲く、有限花序である(写真:後藤弘爾)
1996年2月、イギリスジョン・イネス研究所のエンリコ・コーエンのグループが『ネイチャー』誌に発表したところによると、彼らは無限花序が有限花序に突然変異したキンギョソウを使って、その原因遺伝子CENTRORADIALIS(CEN)を単離した。つまり、たった一つの遺伝子の変異によって、無限花序が有限花序になることがわかったのである。さらに、CEN遺伝子とよく似た塩基配列を持つ遺伝子(ホモログと呼ぶ)がシロイヌナズナ、イネ、タバコにも存在することがわかってきた。
野生型が有限花序であるタバコに着目した私たちは、タバコにCEN遺伝子を導入したところ、無限花序を持つ個体が得られた。またシロイヌナズナでもCEN遺伝子のホモログが、同じく有限花序と無限花序との決定にはたらいていることが明らかになった。タバコのCENホモログについても今後、正確なはたらきを調べる必要があるが、これらの植物種間で有限花序と無限花序とを決める遺伝的メカニズムが共通 であることは間違いないだろう。
このように分類学上重要視されている形態的特徴も、ひと皮むいて分子のレベルで見れば、一つの遺伝子、さらにはその中の一塩基の変化によってもたらされるものである可能性がでてきたわけである。
(ごとう・こうじ/京都大学化学研究所助手)
※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。