BRHニュース
進化の中のパラレルワールドへようこそ!
―新展示にみる"進化論の進化"―
「平行放散進化」―辞書をひいても載っていません。生命誌研究館がオサムシのDNA系統解析によって描き出した、新しい進化像です。
日本各地にいるオオオサとヤコンオサ。それぞれ"別の種"ですから、当然ある場所でオオオサはオオオサ、ヤコンオサはヤコンオサとして確立し、その後、別々に広まったと考えられていました。
ところがDNA系統樹を描くと、同じ地域にいるオオオサとヤコンオサのほうが、遠くにいるオオオサ同士より近いことがわかりました。???"別種"のほうが近縁だというのでは、"種"の意味があやしくなります。
❷200万年前に隆起したアンデス山脈によって、東西に分かれた南米のドクチョウの別々の系統にも”他人の空似”が……。
この予想外の結果を説明するには、「いくつかの地域で独立に同じ分かれ方をした」と考えるほかありません。これが平行放散進化です。
これは、オサムシだけで起こるのではありません。南米のドクチョウや南太平洋のオウムガイ、東アフリカの熱帯魚や高山植物など、世界のいたるところで、それも昆虫だけでなく脊椎動物、軟体動物、植物にも同じような現象が見つかっていたのです。
生き物は「違う環境に適応して違う形になり、種分化していく」といった、選択圧によって変化する受動的な進化を考えるだけでは、この現象は説明できません。
選択圧以前に、生物自体、つまりゲノムの中に多様化する力があり、それが表現された時に初めて環境の力がはたらくと考えるのが妥当でしょう。生物の内部にあったものが見えてくるので、別々の場所で同じものが現れるのです。
昨年10月から始まった「進化の中のパラレルワールド展」では、最先端の研究成果のパネルをまじえながら、ずらりと並ぶ、多様化と収斂の絶妙のバランスをみせる美しい蝶の羽のパターンをよく見て、内なる力と環境の作用ででき上がってきた生き物たちの歴史物語を読みとって下さい。
❸似たもの同士というと、すぐ"擬態(毒をもったものに似せて生きのびる)"が取りざたされる蝶。しかし、毒をもっているものがいなくても、しかも南米、アフリカ、アジアに離れている別々の科にも、そっくりさんは現われる。
❹様々な色や形の中、目玉もようだけが似てくる例も。
(写真=外賀嘉起)
(本誌/谷本周也)
※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。