Special Story
花が咲くということ
1枚ずつ葉を作ってきた成長点が、複雑で美しい花を作るようになったとき、遺伝子レベルではどのようなことが起こっているのでしょうか。様々な形や色をもった花の形づくりには、いくつもの遺伝子がはたらいていますが、花の部品の順番の決め方は単純かつ巧妙な仕組みだということがわかってきています。
花はよく見ると、ガク、花びら、おしべ、めしべという4つの部品からできています。そして4つの部品の並び方は多くの植物で、“ガクー花びらーおしべーめしべ”という順番です。雄花や雌花も、おしべやめしべの成長が途中で止まったために、その部分 が抜けているだけです。おしべの内側にめしべ、という順番にいたっては、例外は1種類だけなのです。
この花の部品の並び方についてのモデルが、今から6年前、シロイヌナズナの研究から提唱されました。花の部品の並び方が変化した突然変異体を調べた結果 、花の部品の順番は、3種類の遺伝子で決まると考られました。その遺伝子を A 遺伝子、 B 遺伝子、 C 遺伝子とします。A 遺伝子だけがはたらくとガクができ、A 遺伝子と B 遺伝子がはたらくと花びら、 B 遺伝子と C 遺伝子がはたらくとおしべ、 C 遺伝子だけがはたらくとめしべになります。このモデルは ABC モデルと呼ばれ、現在、シロイヌナズナだけでなく、花の部品の順番を決める基本型ではないかと考えられています。
シロイヌナズナで“ガクー花びらーおしべーめしべ”が順番に並ぶ仕組みを3種類の遺伝子で説明するモデル。 (原図=荒木崇)
(本誌・工藤光子)
※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。