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Special Story

花をつけないシダ植物で花の起源を探る

花の色の化学と進化:斎藤規夫

私たちが花を美しいと感じるのは、花びらの持つ色の美しさによるところが大きい。多彩な色を示す化学物質、花色素の中心は、アントシアニンと総称され、非常に複雑な構造を持っている。アントシアニンの骨格を作っているのはアントシアニジンで、OH基やメチル基の数の違う約20種類がある。どのアントシアニジンを持つかによって、その花が示す大まかな色系統が決まる。動くことができない植物にとって、色は、送粉者(花粉を運んでくれる風、虫、鳥)を引きつけることに役立っている。このため、花の色は送粉者の好みに応じていろいろと変化してきたと考えられている。

これは、風媒花、鳥媒花、虫媒花で、花色に著しい相違が見られる点からも裏づけられる。風媒花には地味な花が多く、一般に、色も目立たない。色素の骨格(アントシアニジン)は、シアニジン系が中心である。それに対し、鳥媒花、虫媒花は多様で、美しい花色を示すものが多い。色素分子骨格に着目しながら分布調査を行なった結果、風媒花の中心色素であるシアニジンを出発点とし、大きく2つの方向に進んだことが認められる(図)。

一つは熱帯での、緋色や澄色への方向である。これは、この地帯の送粉者がハチドリなどの鳥類であることから、鳥類の視覚と深く関係していると考えられている。もう1つはミツバチなどの昆虫が送粉者となる温帯地方での青色花への方向である。図に示したように、これは水酸基が脱離するか、付加するか、という一つの反応で決まる。つまり、水酸基の脱離が起こると、緋色や澄色の方向へ、一方、水酸基やメチル基が加わると青色花を作り出す。しかし、青色化は色素の骨格の変化以外の原因でも生じることが知られているが、それについてはまだ十分解明されていない。

一般的に、花色素の構造研究には、非常にたくさんの花びら(重さにして1kg以上)が必要で、通 常の野生植物ではこのような条件を満たすものはあまりない。そのような問題を乗り越えて、今後もっと広く多くの植物で色素の構造決定がなされ、これらの問題のより統一的な理解が進むことが望まれている。

アントシアニジンの変化とその方向

シアニジンから水酸基がはずれると澄色へ、また、シアニジンに水酸基が付くと紫色などの青みがかった色へと変化していく。

(さいとう・のりお/明治学院大学教授)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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