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Special Story

花をつけないシダ植物で花の起源を探る

化石に見る花の起源:
西田治文

被子植物の存在が明らかに確認できるのは、白亜紀(約1億4000万~6500万年前)の初頭である。最古の記録としてイスラエル産の1億3500万年前の花粉化石があるからだ。しかし、被子植物の起源は白亜紀以前にまでさかのぼるだろうというのが大方の推測であり、さらに古い化石の出現が期待されている。

ところで被子植物のもっとも特徴的な形態である花は、いつどのようにして形作られたのだろうか。これに答えるべく、世界中で花(あるいは果実)の化石が探し求められている。花は化石になりにくいが、それでも1980年以降さまざまな化石が見つかり、原始的な花はいかなるものか、どのようにして多様化してきたかなどがわかりはじめている。

現生種の比較から、モクレン亜綱が原始的な被子植物であるといわれており、化石記録もこれを支持している。モクレン亜綱には、モクレン、スイレン、クスノキなどさまざまな植物が属するが、その中でとくに初期の被子植物として注目されているのは、モクレン目(木本性、両性花、花が大型で花弁、雄しべ、雌しべの数が多い)とコショウ目(草本性、花が小さく雄花と雌花が別のものもあり、雄しべ、雌しべの数が少ない)の植物である。

従来はモクレン目のような大型の花が原始的であるといわれてきたが、化石ではコショウ目の花のほうがわずかに先、約1億2000万年前に出現する。近年、コショウ目の花化石が白亜紀初期から相次いで報告され、初期の被子植物は草本性で単純な花を持ったコショウ目のような植物ではないかという声が高まりつつある。しかし、この先さらに古いモクレン目の化石が見つかる可能性も皆無ではない。

その後、約1億年前までの間に、モクレン目の花や、DNA解析からもっとも原始的な現生植物として注目されているマツモ科(モクレン亜綱のスイレン目に属する)の果実など、かなり多くの化石が出現するので、被子植物の進化は白亜紀初めに急速に起こったと考えられる。

残念ながら、被子植物の祖先にあたる裸子植物については化石の情報がない。最古の花は何か、その後花はどのように進化したのかを明らかにするためには、そのあたりの情報が必要だろう。

日本では北海道産の白亜紀中期(9000万年前)以降の化石に恵まれている。これは鉱化化石といって、植物の内部構造がほとんど生きていたときのまま保存されているので、被子植物の大きな特徴である雌しべの進化を明らかにするのに好都合である。これまでに、原始的なモクレン目の雌しべの構造を復元したり、化石に基づいて雌しべの進化を論じたりしてきた。これらの化石を用いて、急速に多様化した白亜紀の花の様子をさらに明らかにしたいと思っている。

ハボロハナカセキ
Protomonimia kasai-nakajhongii H.Nishida et Nishida)。
北海道産白亜紀後期(8000万年前)のモクレン目の化石。多数の雌しべが並んでいる。雌しべは1枚の葉が縦に二つ折りに合わさって胚珠(種子)を包み込んだような構造となっており、これが原始的な状態だといわれている。 外見①と縦断標本②。

(にしだ・はるふみ/国際武道大学体育学部教養教育助教授)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。
 

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