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Special Story

雌と雄・この不思議な非対称性

好みの進化学:巌佐庸

多くの動物は、個体ごとにオスとメスに分かれているが、その場合、性による違いは、卵と精子という配偶子の違いにはとどまらない。体の大きさや子の世話・性行動・移動定住性・利他行動など行動上のさまざまな側面にもオス、メスの違いが発達している。

子の世話をしない動物の場合を考えると、オスがつくる精子はメスがつくる卵に比べて圧倒的に数が多く、その生産にはコストがかからない。そのためオスの繁殖成功度は、精子の生産能力ではなくてメスとの交尾の機会を獲得する能力によって制約される。これに対してメスの繁殖成功は、卵や子を生産する能力や子のために適切な産卵場所を選ぶ能力によって決まり、交尾回数とは無関係である。そのため性行動についてはオスが積極的でメスが受け身であることが一般的である。

オスだけが極端に派手な形や色、声をもつように進化している動物は、交尾の機会や交尾相手の質をめぐる「性淘汰」によってつくられたものだが、それには2つタイプがある。1つはアカシカの角のようにメスをめぐってオスどうしが闘争するときに用いる武器を進化させるもので、これは考えやすい。理解がより難しいのは、インドクジャクの多数の目玉模様がついた立派な羽のようにメスが配偶者に対して好みを示す結果としてできるものである。たとえばコクホウジャクという鳥はオスだけが非常に長い尾をもっている。オスの尾を切ったり糊づけして長さを変えることにより、メスが長い尾をもつオスを選んで交尾することが確かめられている。オスが自らの遺伝子を次世代に残す道はメスと交尾するしかないのだから、メスにそのような好みがあるかぎり、労力がかかり、実生活に多少不便でもオスは大きな尾をもつほかはない。

しかし、メスがどうしてそのような好みを進化させたのか。これには諸説あり、進化生物学のもっともホットな話題の一つである。ここで大事な点は、他のメスに好まれるような長い尾をもつオスを自分も好んだメスは魅力的な息子を産み、そのおかげで多くの孫をもてることになり、好みはますます広がる。ただ最終的に進化するものが、どのような形質でもよいのか、それともオスの健康度のような質の指標になるものなのか、について数理モデルを駆使した議論が続いている。ごく最近の結果では、次々と新しい流行が進化しては次のファッションに置き換わるという進化がつねに続いている可能性もあることがわかってきている(『Nature』1995年10月5日号、lwasa&Pomiankowski)。

オスの形質とメスの好みの進化のモデル

横軸がオスの形質(たとえば尾の長さ)で、縦軸がメスの好みの強さ。最終的にオスの極端な形質とメスの強い好みが進化する例。初期値がいずれの場合も●印の安定平衡点に行き着く。↑は生存率最大の尾の長さ。

(いわさ・よう/九州大学理学部教授)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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