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BRHサロン

絹と昆虫たち

ボランティアの「縁側」:金子郁容

どんな生物もそうであろうが、我々人間は、一人で生きていくことはできない。いうまでもないことであるが、現代人はともすれば、何でも自分の力でするということをもって「自立した生活」であるという幻想をもってしまう。かくいう私も、そんな、いわゆる現代人の見本みたいな人だ。

しかし、ちょっと怪我をするとか病気をすると、じつは、我々は何をするにも、多くの人に深く依存して生きているのだということを思い知る。都会には多くの人が物理的には一緒に生活しているのであるが、企業人、商店主、学生、主婦などなどは、それぞれ透明のカプセルにくるまっていて、接触するのは、ただ、ものを買うときとか、用事があるときだけで、関係は切り取られた、形式的なものになってしまっている。

(撮影 = 阿美智 篤)

伝統的な日本家屋の「縁側」は、内側でも、外側でもなく、その双方が互いに侵入可能な領域である。お年寄りが縁側でお茶を呑みながら、ゆっくりと日向ぼっこをしているところへ、近所の子供たちが、拾ったきれいな石を見せにふらっとやって来る……現在の東京の住宅事情では、こんな光景はなかなか実現しえないであろうが、現実の縁側が物理的にはなくとも、たとえば、電子的ネットワークによって作られたものでもいいから、年代を超えて、形式的な限定された機能的関係を超えて、さまざまな人が交流できるような、人々が生きていくための基盤を作る仕掛けが必要だ。

私は、この数年間、少しだけボランティアをしているが、ときおり意外なときに、それぞれのカプセルが破れ、溶解し、それまでは無関係だと思っていた人とつながりがつけられる瞬間を経験することがある。ボランティアは、新しい意味での「縁側」を提供するのかもしれない。

(かねこ・いくよう/一橋大学商学部教授)
※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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