今号テーマ
複雑さを少しづつ解く
科学の世界で新しい考え方を探ろうとすると自然現象の基本を知る物理学が気になります。新しい物理学に取り組む蔵本先生にゲノムを視野に入れて考えていただきたいとボールを投げました。返されるボールが楽しみです。リサーチは、真核細胞の特徴であるオルガネラゲノムに注目しました。田中さんの暗所で増殖できない葉緑体を共生させた細胞が周期を合わせてシステムをつくる過程、佐藤さんの父由来ミトコンドリア消失の過程は、共に細胞の本質を追う研究です。サイエンティスト・ライブラリーは、ゴリラと共にあり、そこから人間を考える山極先生の魅力全開です。紙工作は擬態の王者タコに挑戦、形づくりに苦労しました。タコの気持ちを聞きたい思いです。(中村桂子)
TALK
緯(よこいと)としての非線形科学
葉緑体とミトコンドリアから
「生きている」を考える
生きものの特性は「膜・複製・代謝・進化」と教科書にあり、私たちもそう考えてきました。しかし、細胞、ミトコンドリア、葉緑体、ウイルスのすべてがもつゲノムを切り口にすると、本質は「複製」と「進化」ではないかと思えてきました。ここから改めて「生きている」とはどういうことかを問うのが今年のテーマです。
CARD
つむぐ
20年前に生命誌研究館を始めたきっかけは、生命科学という学問を、生きているとはどういうことだろうという素朴な問いにつなげたいという思いでした。その具体的なとっかかりがゲノムでした。DNAを遺伝子としてだけでなく、細胞という生きる単位の中の総体(ゲノム)として捉えると、普遍性、多様性、歴史性、階層性、創発性などが見えてきたのです。それから20年、ゲノム解析は予想をはるかに越えて進展しました。今や個人のゲノム解析の時代ですが、ゲノムの本質がわかったかとなると・・・さまざまな現象が次々出てきて複雑です。少しわけがわからなくなってきている気もします。ゲノムに向き合い直し、生きものって何だろうと改めて問うのが次の10年です。織りものの始まりは糸を「紡ぐ」こと。ゆっくり紡いで原点からの出発です。