今号テーマ
海でも陸でも楽しい物語が編まれて
ここしばらく、生命誌の中の大事なできごとの一つとして「生きもの上陸」を見てきました。その結果生まれた水、陸、空というさまざまな環境の中での生きものたちの暮らしの工夫には眼を見張るものがあります。
対談のお相手は諏訪さん。陸上での変化の中で最大のできごとと言える人類誕生の姿を捉えつつあると思えるお仕事について、たくさんの化石の中で語り合った時間は充実したものでした。
リサーチは、陸に上がった脊椎動物と植物での、新しい能力獲得の姿を捉える若い方たちです。トリの発生の高橋淑子さん、植物の塚谷裕一さんのもとから育つ新しい力を頼もしく思います。トリ(脊椎動物)の骨や筋肉を作る基本構造の中から旅をして血管を作る細胞になっていく過程。行く先でしっかり体を作ってくれよと送り出されているようで、細胞の世界にも物語があると感じます。動物に比べると、形にそれほど変化がないように見える植物も、それぞれに必要な器官を工夫しています。イネの細長い葉をしっかり支える中肋を作る遺伝子は、既存のものを流用しているとわかりました。
サイエンティスト・ライブラリーの塚本先生は、回遊への関心からウナギの産卵場を追い続け、ついにそれを特定なさったドラマを語って下さいました。本当に知りたいのは旅をする心なのだとおっしゃりながら。(中村桂子)
TALK
化石が物語る人類の始まり
CARD
編む
愛づる、語る、観る、関わる、生る、続く、めぐる…と続いた動詞、今年は「編む」です。細胞をつくるDNAやタンパク質などの分子、個体をつくるさまざまな細胞、生態系の中の多種多様な生きものたち。個々についてのデータは溢れんばかりですが、これらがお互いに関わり合い、編み上げられていくプロセスが解けなければ「生きもの」は見えてきません。分子から生態系までさまざまな階層の研究から編み出される生きものの姿を見つめます。それを基本に世界を編集し、物語りを描き、生命誌の一幕を作っていきたいと考えています。