科学は物理学を基本に進展してきたので、生きものも機械のように解明し、数式で表現できるかのように考えてきました。しかし、生物学の教科書は言葉と図像で書かれています。生きものは語るものであるという実感が深まっています。
トークの川田さんが年代記ではなく叙事詩としての歴史という視点を示してくださいました。生命誌にとって重要です。リサーチは1個の分子と語り合う野地さんと一度分子から離れて徹底的に図を描くことでさまざまな生きものの土台を見出す丹羽さん。80℃の温泉の中の好熱菌たちに生物の全てを語らせようとするサイエンティスト・ライブラリーの大島さん。どれも、生きものと向き合いながら語っている言葉が聞こえてくる内容です。
脳のデータベースを「脳とは何か」という問いに結びつける試みは、データを言葉と図像による知識とし、生命現象の理解につなげるための表現の一つの挑戦です。(中村桂子)
TALK
語る叙情詩
「生きもの」と「ヒト」と「人間」
CARD
語る
人間の知的活動は、自然という書物を読もうとするところから始まりました。その中で科学は、数学という誰もが納得する方法で自然のもつ秩序を示してきました。しかし、研究が進むにつれて、秩序の奧にある混沌が見え、そこにふしぎがたくさんあることがわかってきました。宇宙、地球、生きもの、人間。それぞれが持つ、矛盾をも含んだ秩序を知るには、対象を分解し尽くそうとせずに、言葉やイメージの持つ力を活かして「語る」ことが必要だろうと思うのです。生命誌は生きもののもつ歴史物語りを語る知です。細分化した科学ではなく、自然そのものを知る「知」を創り出す第一歩がここにあります