季刊誌「生命誌」通巻23号

Science Topics

生きたオルガネラを見る

丹羽康夫
GFPタンパク質の立体構造
GFPタンパク質の立体構造。(イラスト=大森幹)
 細胞には、その生命体の遺伝情報(DNA)を詰め込んだ核のほかにも、独自の遺伝情報(DNA)をもつミトコンドリアや葉緑体などさまざまな細胞内小器官(オルガネラ)がある。
 葉緑体は、プラスチド(色素体)と総称されるオルガネラの中で、光合成用に特殊化したものをいう。プラスチドはその邦訳が示すように、トマトの果皮、ニンジンの根などの赤いカロチノイドのような色素を含む有色体として存在する場合もあるが、未分化状態のプロプラスチドや、デンプンを貯蔵するアミロプラストなどは無色で、生体観察が難しい。じつは、プラスチドは「プラスチック」と同じ可塑性を意味するplasticityを語源としており、その名の通り、植物の一生を通じて姿形や色、数などを変えて様々な機能を発揮する。
 このようなダイナミックなオルガネラの動態をとらえるためにはどうしたらいいのだろうか?私は、最近オワンクラゲ(Aequorea victoria)から単離されたGreen fluorescent protein(GFP)を利用することにした。GFPは、自ら緑色の蛍光を発するタンパク質である。オルガネラでGFPが作られれば、緑色に光るミトコンドリアやプラスチドを生きた状態で観察できる。固定したり、染色したりと、細胞を殺さなければいけなかったこれまでの方法とは大きく異なる。
 そのためには、ミトコンドリアやプラスチドにGFP 遺伝子を入れればよいわけだが、その方法が確立していないので、一工夫した。じつはミトコンドリアや葉緑体で働くタンパク質の遺伝子は、ほとんどが核ゲノム中にあり、細胞質で「オルガネラ行き」という荷札をつけた状態のタンパク質に翻訳されるDNAの配列をもっている。GFP 遺伝子にミトコンドリア、あるいは葉緑体行きの荷札となる配列のDNAを融合し、これを核ゲノムに入れた。
 こうして、細胞質で葉緑体行きの荷札をつけて合成されたGFPは、幸いなことに葉緑体以外のプラスチドにも運ばれた。光合成をしていないプラスチドでも緑色の光が観察できたのである。こうしてまず、すべてのプラスチドで共通の荷札が使われていることが明らかとなった。これで、生きたプラスチドを調べられることになった。
 ミトコンドリアについても、色素で染める方法は吸水を伴うので使えなかった乾燥種子中での状態を、GFPを使ってとらえることに成功した。乾燥種子中ではじっとしていたミトコンドリアは、発芽時の吸水後に驚くほどのスピードで細胞内を動き回っているのが観察できた。
 今後は、ミトコンドリアやプラスチドが、植物の一生を通じて、あるいは様々な環境変化に対してどのようにその形態や動きを変化させていくのか、これらの機能欠損が植物体にどのような影響を与えるかを明らかにし、細胞にとってのオルガネラの意味を解明していきたい。
生きたままのオルガネラが見える
生きたままのオルガネラが見える(シロイヌナズナ根端部)。
a) GFP遺伝子だけを入れると細胞質全体が光る。
b) 核行きの荷札をつけたGFPは核で光り、核の場所を教えてくれる。
c) 葉緑体行きのGFPは根端部で、光合成を行なっていない根のプラスチドで光る。
d) ミトコンドリア
(写真=丹羽康夫)
(にわ・やすお/静岡県立大学大学院助手)
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