季刊「生命誌」77〜80号の内容を1冊の本にまとめました。
はじめに
「生命誌の扉をひらく -科学に拠って、科学を超える-」。1990年に出したこの本に生命誌研究館への想いを綴りました。実際に、岡田節人先生を館長とする活動が始まったのが1993年でしたので、20周年になりました。2014年3月1日の記念の催しにあたり、まとめた活動記録を付録にしましたのでごらん下さい。幸い「生命誌の扉をひらく」に書いた思いは、館の仲間の力で着実に進みました。今、20年という時間の重みを噛みしめています。
そこで、次の扉をひらく活動を始めようと、今年の動詞は「ひらく」にしました。「生命誌」という知、「研究館」という場の本質を変えようとは思いません。けれども、この20年間に科学のありようも社会も大きく変わりましたので、それを踏まえて、「生命誌」をより高度に練り上げる新しい一歩を踏み出す気持です。連続性を大切にしながら新しい扉を開きたいと思います。
研究では、ゲノム解析が進み、データの山ができています。生命科学研究の中心は医学になりましたので、最も多いのはヒトゲノムのデータですが、線虫・ホヤ・カイコなどさまざまな生きもののゲノムも解析され、今では約1万種のゲノムがわかっています。これらを比較し、遺伝子のはたらきを解明すればゲノムが「生きている」を支える全体像が見えて来るのではないか。そう期待していますが、現実はなかなか厳しいのです。ヴェールの向うで誘いをかけることを楽しむのが自然なのですね。でももう一歩本質に近づきたいものです。
生命誌を応援して下さるお一人だったまど・みちおさんが、今年104歳で逝かれました。まどさんの「百歳日記」という御著書に「世の中に『?』と『!』と両方あればほかにはもう何もいらん」という言葉があります。最も魅力的な?と!を与えてくれるのは生きものです。まだ分からないところだらけとはいえ、機械とは異なる特徴が見えてきています。ですから、機械論でなく生命論を基にした世界観をもち、人間はもちろん、さまざまな生きものたちが思いきり生きられる社会をつくりたいのです。共通性を持ちながら多様であるという生きものの特徴を生かす社会へ向けて、興味深い研究や魅力的な人との出会いを楽しみ、本質探しを続けていきます。新しい社会へ向けての扉がひらくことを信じて。
中村桂子
付録について
生命誌研究館20年のあゆみ、季刊「生命誌」20年のアーカイブ、そして館の日常を映したドキュメンタリーをDVDとして付けました。これまでと現在の研究館の活動をご覧ください。
掲載記事
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