季刊「生命誌」69〜72号の内容を1冊の本にまとめました。
はじめに
2011年度のテーマを「遊ぶ」ときめたのは、三月末のことでした。11日にマグニチュード9.0という未曾有の大地震とそれによる津波、そして原子力発電所の事故という災害があった直後です。ここでこの言葉を選んでよいのだろうか。かなり悩みました。
生命誌は、生命という切り口で自然・人間について考える知であり、〝生きている〟という実感を持つことのできる動詞を通して知を組み立てていこうとしています。これまで取りあげてきた「愛づる」「語る」「観る」「関わる」「生る」「続く」「めぐる」「編む」は、どれも生きものらしさを知る研究を探し出し、生きることを大切にしている知の探検者と出会う場を生み出してくれました。その中で、自ずと「遊ぶ」という言葉が浮かび上がってきたのです。以前は、遺伝子といえば、それが決定的に生体内の現象を決めるというイメージがありました。ですから、細胞内で明らかに重要なはたらきをしている遺伝子をはたらかないようにしても、バクテリアやマウスが平気で生きていることがあるとわかった時は、皆驚きました。でも、大切なはたらきであればあるほど、バイパスを作っておくはずです。そのような〝遊び〟があるからこそ生きものは柔軟に、しかも強く生きていけるのです。災害からの立ち直りは、単なる復興でなく、生きものらしい柔らかくて強い社会を作りたいという思いをこめて「遊ぶ」にしよう。そう決めました。
生きているということは、善か悪かをすっぱり分けることのできない複雑なものであり、それをすべて抱えこんでこそのダイナミズムなのだと改めて思います。生きものが見せるダイナミズムを各ページから読みとってください。
松岡正剛さんが、「〈遊〉という文字は出かけるという意味で、しんにょうの中の〈方〉は旗、〈子〉と合わせて旗竿をもつ人の形を表わす。旗をかかげて向こうへ出かけていき、そこから帰ってくると道ができる。ここには動きがある。」と教えてくださいました。どんどん出かけて行こう、そして新しい道を作っていこうと思っています。表紙を見てください。遊んで道を作ってますでしょ。
中村桂子
付録について
生命誌絵巻に描いた38億年の道のりをすごろくに仕立てた、「生命誌すごろく」が付いています。すごろくの“あがり”は、現在地球上で暮らす多様な生きものの世界。大きく変化し続ける地球と関わり合いながら続いてきた生きものの歴史を、すごろくで辿りましょう。
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