季刊「生命誌」45〜48号の内容を1冊の本にまとめました。
はじめに
「愛づる」「語る」と続けてきたテーマ、今年は「観る」です。どのテーマも、底に流れるのは、"じっくり時間をかける"です。生きているとはどういうことかを知りたいなら、生きている状態をじっくり観ることが基本だと思います。これは私たちだけの思い込みではないようです。本書でも、皆さんから「見るが始まりであり終わりである。」「瞬間を見ることから時間が見えてくる。」「見続けていると、ある時ふと違和感を覚える時があり、そこに発見がある。」「情報でわかるなどと思っていたら大間違い。実物を見なければ。」次々となるほどと思う言葉が出てきます。情報を大量に集めれば何かがわかってくるというものではなく、一つ一つをていねいに見ることからしか本質は見えてこない、と断言してもよいでしょう。もちろんその上で、情報の活用は大事ですけれど。
カードとwebと本という組み合せでの情報発信も4年目です。カードで見る、webで読む、一まとまりの本から何かを引き出す、という形で使っていただけるとありがたいのですが、それにはまだ工夫が必要だと実感しています。
最近、大学や研究所で、サイエンス・コミュニケーション、アウトリーチなどの言葉が聞かれます。法人化の中で、資金獲得のためにはアカウンタビリティが必要というわけです。なぜかすべてがカナ言葉で言われているのは、内発的でないからでしょう。科学を日常の中で捉え、是非これを伝えたいという気持ちから表現を工夫するという活動を積み重ねていけば、この問題への答は出ると思います。
本書を通して研究館を感じとっていただければ幸いです。さらに、webでの訪問や、高槻への来訪をお待ちしています。
中村桂子
掲載記事
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