最新論文一覧

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DNAから進化を探るラボ(系統進化研究室 蘇 智慧)

イチジク属植物とイチジクコバチの間では授粉と産卵というトレードオフのもとに相利共生関係が構築されています。この相利共生関係は、種特異性が高く"1種対1種"と言われてきましたが、近年co-pollinator(1種の植物に複数種の送粉コバチ)とpollinator-sharing(複数種の植物に1種の送粉コバチ)という現象が多く観察されるようになりました。本論文は、ミトコンドリアDNAとマイクサテライトマーカーのほかに、ddRAD-seqというゲノム規模の配列データを用いて、3種のイチジク属植物が1種の送粉コバチを共有している可能性を示しました(図1)。また、この送粉コバチの共有はコバチの寄主転換によってもたらした結果であることも重ねて示唆されました。一方、植物とコバチの地域集団間の同調的遺伝分化も見られました(図1)。

Wachi, N., Kusumi, J., Tzeng, H.-Y., and Su Z.-H. (2016)
Genome-wide sequence data suggest the possibility of pollinator sharing by host shift in
dioecious figs (Moraceae, Ficus).
Mol. Ecol. 25: 5732-5746. doi:10.1111/mec.13876.

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オサムシの系統進化の研究から、私たちは「静の進化 Silent evolution」という進化プロセスを提唱してきました(Su et al., 2001; Osawa et al., 2004)。しかし、その中で、形態の緩やかな変化と形態進化の停滞を明確に区別せずに議論していました。本論文では、オサムシを始めとする数種の甲虫を用いて、ミトコンドリアDNAによる系統解析と分岐年代の推定を行いました。その中で、長期間分岐していながら、形態的変化が全く見られない系統について、形態進化の停滞と見なし、これを「Silent evolution」としました(図1)。

Osawa, S., Su, Z.-H., Nishikawa, M., and Tominaga, O. (2016)
Silent evolution.
Proc. Jpn. Acad., Ser. B 92: 455-461. doi:10.2183/pjab.92.455.

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チョウが食草を見分けるしくみを探るラボ(昆虫食性進化研究室 尾崎克久)


チョウの進化と食草転換
ミカン科を食草とするナミアゲハ(下)とセリ科を食草とするキアゲハ(上)。キアゲハはアゲハチョウの仲間では新しく分化したとされており、食性転換がきっかけになったと考えられている。ミカン科からセリ科のように大きく異なる植物へ移る際には、踏み石のように間に安全な植物を挟んでいる可能性が示唆された。

蝶や蛾の仲間の多くは植食性で、食草の変更が多様化や種分化に最も大きな影響したと考えられています。しかし、食草選択がどのように行われているか、基盤となる仕組みなどは十分に理解されているとは言えません。図鑑や論文には、蝶と食草の関係について多くの情報が蓄積されていますが、それらを全て読み込み記憶し、知識として活用するのは困難です。

そこで我々は、日本の蝶について文献情報をデータ化し、蝶と植物の関係と系統関係を組み合わせ、統計学的に解析を行いました。その結果、基本的に蝶は科という分類単位ごとに決まった科の植物に依存していますが、蝶の一部のグループは、分類群の単位を超えて同じ植物を餌として共有していることが明確に示されました。この現象は偶然そうなったのではなく、独立に獲得した適応的な形質であること考えられます。例えば、シロチョウ科の蝶はアブラナ科の植物に強く依存し、シジミチョウ科の蝶はグループごとに様々な植物に依存していますが、これら蝶の一部のグループがマメ科を食草として共有しています。

これに加えて、蝶が依存している寄主植物に特徴的な化合物を統計学的に解析しました。同定された化合物のいくつかは、ある蝶にとっては誘引物質でありながら別の蝶にとっては忌避物質であることが知られているものでした。

さらに、昆虫が作る化合物(におい成分など)を、食草由来の化合物を基質として合成可能か推定するため、公開データベースに登録されているゲノム配列やトランスクリプトーム配列を利用し、酵素反応に関わる遺伝子を予測しました。その結果、いくつかの化合物について、合成経路に関与すると考えられる遺伝子を同定することが出来ました。

我々の成果は、公開されている様々なデータを統合することにより、特定の生物間相互作用に関与すると考えられる化合物をコンピュータによって検出することが可能になり、さらにゲノムやトランスクリプトームのデータを組み合わせることで、食草選択に関与する分子メカニズムの解明を省力化・高速化できることを示しました。

ここから見えてくる、食性転換に関わる分子メカニズムのストーリーを考えてみましょう。蝶が分類群の大きく異なる植物へ食性転換するときには、いきなり違う植物に適応できてしまうのではなく、一旦はマメ科のような代謝能力的に安全と考えられる植物を利用し、その後に既存の代謝関連遺伝子群で対応可能な植物へと移っていき、食性が変わった後に関連する遺伝子群が新たな食草へチューニングされるかのように変化していくのではないかと考えられます。

Ai Muto-Fujita, Kazuhiro Takemoto, Shigehiko Kanaya, Takeru Nakazato, Toshiaki Tokimatsu, Natsushi Matsumoto, Mayo Kono, Yuko Chubachi, Katsuhisa Ozaki & Masaaki Kotera (2017)
Data integration aids understanding of butterfly–host plant networks
Scientific RepoRts | 7:43368 | DOI: 10.1038/srep43368

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アゲハチョウは数種類のミカン科植物の葉を食べる狭食性昆虫であるため、膨大な植物種の中から寄主植物(ミカン科植物)を正確に選ぶ必要がある。寄主植物の選択は雌親の産卵時に行われており、ドラミング行動によって前肢ふ節に存在する感覚子(図1)で寄主植物の葉に含まれる化合物(味物質)認識した後、産卵する。アゲハの産卵を誘導する植物由来の化合物を産卵刺激物質と呼ぶ。アゲハの産卵刺激物質は、食草であるウンシュウミカン葉から10種類見つかっており、それぞれ単一では効果がなく混合して初めて産卵を誘導する。しかし、複数の産卵刺激物質がアゲハによってどのように認識され、産卵行動を誘起するのか?そのメカニズムは未解明であった。

本研究は、ナミアゲハふ節感覚子の産卵刺激物質に対する電気生理応答を解析した結果、感覚子内の3種類の味細胞が産卵刺激物質に対して特異的に応答していること、さらに、その3種類の産卵刺激物質を応答する味細胞が同時に興奮(神経発火)することが産卵行動誘発に必要であることを産卵行動実験により明らかにした(図2)。つまり、ナミアゲハは複数の化学物質情報を、3つの情報(神経シグナル)にまとめ、それらの情報を脳で同時に受け取ったときにだけ産卵するといった行動調節メカニズムを持つと考えられる。

本研究は複数の産卵刺激物質によって制御されるアゲハチョウ科昆虫の寄主植物選択メカニズムを示すとともに、これまでの昆虫の味覚研究では見つかっていない、味覚を介した行動調節メカニズムを提示している。


図1 前肢ふ節とふ節感覚子


図2 アゲハチョウの産卵行動調節メカニズム

Masasuke Ryuda, Delphine Calas-List, Ayumi Yamada, Frédéric Marion-Poll,Hiroshi Yoshikawa, Teiichi Tanimura, and Katsuhisa Ozaki (2013)
Gustatory sensing mechanism coding for multiple oviposition stimulants in
the swallowtail butterfly, Papilio xuthus
Journal of Neuroscience 33 (3) 914-924

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Katsuhisa Ozaki, Masasuke Ryuda, Ayumi Yamada, Ai Utoguchi, Hiroshi Ishimoto, Delphine Calas, Frédéric Marion-Poll, Teiichi Tanimura & Hiroshi Yoshikawa (2011)
A gustatory receptor involved in host plant recognition for oviposition of a swallowtail butterfly Nature Communications doi: 10.1038/ncomms1548

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ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ(細胞・発生・進化研究室 小田広樹)

 オオヒメグモの体節形成に関わる縞パターン形成を定量的に解析し、一続きの細胞シート内で起こる3つの異なる縞パターン形成プロセスを記載した論文が、国際学術雑誌「Developmental Biology」に掲載されることとなり、3月16日にオンラインで先行公開されました(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012160617309089)。
 節足動物の共通の形態的特徴として、体の軸に沿って繰り返し構造を持つことが挙げられます。この特徴を形作るプロセス(過程)は種によって、また、体の部域によって様々であることが昆虫やクモを含む、いくつかの節足動物種の実験研究から示唆されてきました。一方、理論研究では、知識が豊富な双翅目昆虫(ショウジョウバエ)を基本モデルとして、縞パターン形成原理の探究がなされてきました。しかし、多くの昆虫種が多核性胞胚(細胞質を共有する多核の胚)を経て縞パターン形成を開始するため、純粋な細胞環境(それぞれの核が細胞膜で隔離され、別々の細胞質を持つ環境)における縞パターン形成原理の探究は節足動物ではほとんど進めることができていません。そのため、節足動物に見られる多様な縞パターン形成プロセスがどのようなメカニズムに起源しているのか、私たちの理解は全く十分とは言えない状況にあります。細胞環境を胚発生の早くに確立するオオヒメグモは、そのような困難な状況を打開しうる有力なモデル生物です。
 今回私たちはオオヒメグモ胚の一続きの細胞シート内で起こる縞パターン形成を、細胞追跡データと遺伝子発現の定量データに基づいて解析し、体の部域によって異なる3種類の縞パターン形成プロセスを記載しました。具体的には、頭部における縞パターンの反復分裂、胸部における同調的分割、後体部における振動による周期的縞パターン生成です。細胞シートの両端領域(頭部と後体部)で、対照的なパターンの動態(「分裂」対「振動」)が生じていることを示したことが今回の記載の注目ポイントです。
 今回の定量解析のひとつの特徴は、異なるパターン形成プロセスを共通の時空間的枠組みで記載したことです。細胞シートの形状計測に基づいて体の軸の伸長具合を数値化し、その数値と縞パターンの発展を関連づけたことによって可能となりました。どの程度のスピードで細胞シート全体が変形し、その変形にそれぞれの部域がどれだけの比率で貢献しているのかを具体的な数値で示すことができました。頭部の縞パターンの分裂の反復にかかる時間や、後体部の発現振動の周期も概算することができ、どちらも約5時間であることが分かりました。これらの定量データは、今後理論的な研究を展開して行く上で重要な基礎データとなります。
 今回の論文には、オオヒメグモ胚における細胞の挙動と遺伝子発現パターンの変化を示すために多数の動画が集録されています。教科書で広く知られているショウジョウバエ胚とは大きく異なるパターン形成が、オオヒメグモ胚の中で繰り広げられていることを直感的に理解できるように構成されています。形態形成の場を構成する独立した細胞が互いの位置関係を変えながら如何に反復縞パターンを作り上げるのか、現在そのメカニズムの解明に取り組んでいます。

Natsuki Hemmi, Yasuko Akiyama-Oda, Koichi Fujimoto, and Hiroki Oda(2018)
A quantitative study of the diversity of stripe-forming processes in an arthropod cell-based field undergoing axis formation and growth
Developmental Biology, 437(2):84-104
DOI: 10.1016/j.ydbio.2018.03.001

 オオヒメグモ(Parasteatoda tepidariorum) のゲノム配列を解読した論文が、2017年7月31日にオンライン学術雑誌「BMC Biology」に掲載されました (https://bmcbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12915-017-0399-x)。私たちの研究室が、今から約17年前に世界に先駆けて実験動物として利用をはじめ、技術的な開拓を進めてきたオオヒメグモが、世界の研究者に広がり、ゲノムプロジェクトが実現し、今回の論文発表に繋がりました。私たちBRHを含め、オックスフォード・ブルックス大学、ベイラー医科大学、ゲッチンゲン大学など世界の多数の研究機関の共同研究となっています。

 オオヒメグモゲノムの詳細な解析と、サソリを含めたその他の節足動物との比較解析から、4億5千年以上前に存在したクモとサソリの共通祖先でゲノム全体の遺伝子が倍加(重複)した可能性があることが分かってきました。脊椎動物の進化でもゲノム全体の重複が起こったと考えられていますが、今回の発見は、ゲノム重複の新たな事例を提供し、ゲノム重複が動物の進化にもたらした影響を、今後詳しく研究するのに役立ちます。

 今回の研究でオオヒメグモのゲノム及び転写産物の配列情報が整備され、オオヒメグモはますます利便性の高いモデル生物として世界の研究者に利用されることが期待されます。

Schwager, Sharma, Clarke, Leite, Wierschin, Pechmann, Akiyama-Oda, Esposito,
Bechsgaard, Bilde, Buffry, Chao, Dinh, Doddapaneni, Dugan, Eibner, Extavour, Funch,
Garb, Gonzalez, Gonzalez, Griffiths-Jones, Han, Hayashi, Hilbrant, Hughes, Janssen,
Lee, Maeso, Murali, Muzny, da Fonseca, Paese, Qu, Ronshaugen, Schomburg,
Schönauer, Stollewerk, Torres-Oliva, Turetzek, Vanthournout, Werren, Wolff, Worley,
Bucher, Gibbs, Coddington, Oda, Stanke, Ayoub, Prpic, Flot, Posnien, Richards and McGregor(2017)

The house spider genome reveals an ancient whole-genome duplication during arachnid evolution
BMC Biology, Volume 15, Issue 62, 2017

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昆虫型E-カドヘリンの進化起源をゲノム解析で探った論文が、2017年6月17日にオンライン学術雑誌「BMC Evolutionary Biology」に掲載されました (https://bmcevolbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12862-017-0991-2)。昆虫のE-カドヘリンは、脊椎動物のEカドヘリンとは細胞外構造に大きな違いがある分子ですが(Nishiguchi et al., 2016)、共通の祖先分子に由来する、形態形成に重要な細胞間接着分子です。本論文では、非昆虫節足動物のうち、鋏角類5種、多足類1種、甲殻類6種のゲノムを解析し、それぞれのゲノムに存在するクラシカルカドヘリン遺伝子の種類と構造を同定するとともに、それらを詳細に比較し、分析しました。E-カドヘリンはクラシカルカドヘリンの一種ですが、昆虫型E-カドヘリンは初期節足動物が多様化した後に、祖先型のクラシカルカドヘリンから段階的なスリム化を経て進化してきたことが示唆されました。今回の発見で特に興味深いのは、解析した甲殻類のうち、鰓脚(ミジンコ)類とケンミジンコ類で昆虫型のE-カドヘリンが確認されたにも関わらず、軟甲類においては祖先型カドヘリンと昆虫型E-カドヘリンの中間的特徴を示すカドヘリンのみが見つかったことです。この発見は汎甲殻類(昆虫類+甲殻類)の中で、ミジンコやアルテミアなどの鰓脚類がフナムシやヨコエビなどの軟甲類よりも昆虫類に系統的に近いグループである可能性を示唆します。これまでに脊索動物門においても、脊椎/尾索動物と頭索動物の間でクラシカルカドヘリンの細胞外領域の構造にはっきりとした違いがあることが分かっています (Oda et al., 2002)。今回の節足動物門での発見によって、クラシカルカドヘリンの構造進化と動物の系統発生との関係を追究することの重要性がさらに高まったと言えます。

Mizuki Sasaki, Yasuko Akiyama-Oda, and Hiroki Oda(2017)
Evolutionary origin of type IV classical cadherins in arthropods
BMC Evolutionary Biology, Volume 17, Issue 142, June
DOI: 10.1186/s12862-017-0991-2

ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボの細胞間接着分子(E-カドヘリン)論文が科学雑誌「Journal of Cell Science」に掲載されました。今回の研究で、昆虫のからだ作りに重要な働きをもつ細胞間接着分子(E-カドヘリン)の分子形態を世界で初めて観察し、対応する脊椎動物分子には見られない球状構造を発見しました。今回の発見は、脊椎動物と昆虫が共通祖先から誕生したそれぞれの進化過程で、多細胞体の形成と形作りに欠かせない、同種の細胞同士をつなぐ分子構造基盤に大きな変更があったことを意味するもので、多細胞動物の多様化の仕組みを理解することにつながる成果です。

Shigetaka Nishiguchi, Akira Yagi, Nobuaki Sakai, Hiroki Oda(2016)
Divergence of structural strategies for homophilic E-cadherin binding among bilaterians

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ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボの、最新論文が、オンライン科学雑誌「Development, Growth & Differentiation」に掲載されました。今回発表した研究により、一つのクモ胚の中で、異なる4種類の遺伝子の発現を別々に異なる色で検出することが可能になりました。この染色技術は、定量解析や遺伝子機能抑制技術などとも組み合わせることが可能であり、今後のオオヒメグモ胚を用いた研究を促進することが期待されます。

※雑誌の表紙に、オオヒメグモ胚の写真が採用されました!
写真:左の写真が新たに確立した方法で染色したオオヒメグモ胚。からだの軸を生み出す最初のステップが可視化されています。(もっと大きい画像はこちらから

Yasuko Akiyama-Oda and Hiroki Oda(2016)
Multi-color FISH facilitates analysis of cell-type diversification and developmental gene regulation in the Parasteatoda spider embryo

  • 「Development, Growth & Differentiation」(2016年2月号)に掲載されました。
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カエルとイモリのかたち作りを探るラボ(形態形成研究室 橋本主税)

 脊椎動物を定義づける特徴の一つとして、無脊椎動物にはない複雑な頭部構造を持つとことが挙げられます。その頭部構造は、進化の過程で特殊な細胞集団、すなわち神経堤細胞やプラコードを獲得してきたことによって複雑化してきたといわれています。私たちは、脊椎動物の頭部構造の獲得の謎に迫るヒントの一つとして、脊椎動物にのみ存在し、且つ、将来頭部となる領域に限局して存在するP2Y受容体の役割に注目してきました。P2Y受容体とは、Gタンパク質共役型受容体の一つであり、細胞外に放出されたヌクレオチドによって活性化され細胞内の環境を調節しています。ヒトでは8種類、アフリカツメガエルでは10種類の遺伝子が見つかっています。これまで、私たちはアフリカツメガエル胚を用いた研究により、P2Y受容体の中でも特に近縁であるp2ry1p2ry11の頭部領域における発現について遺伝子の機能阻害実験からそれぞれの遺伝子が頭部形成過程に重要であるということを明らかにしました。

 今回私たちは、脊椎動物の祖先的な頭部の形態を持つヤツメウナギにも存在することが明らかとなったP2RY4受容体の役割について調べました。p2ry4は、まず初めに、頭部構造の最初のステップである「神経誘導」が行われる領域として重要なオーガナイザー領域 (図1, d, 赤) や予定神経外胚葉 (図1, d, 青) で強い発現が確認されました (図1, b, c)。神経胚期になると神経堤細胞やプラコードで強い局在が見られ (図1, e)、神経胚期以降では中枢神経系での広い発現が確認でき、頭部形成に重要な時期や領域で確認されました (図1, f, g, h)。遺伝子の機能破壊を行うと頭部構造の萎縮が見られた為、頭部形成過程のどの段階でp2ry4が必要であるか調べると、神経誘導が進行する原腸胚期で頭部オーガナイザー遺伝子の発現に特異的に関与していることが示されました(図2, b, d)。p2ry4の発現が頭部オーガナイザー領域の形成を介して、頭部形成に重要であるということが今回の研究結果より明らかとなりました(図3)。P2ry4は神経堤領域に強く発現が認められますが、機能破壊実験では神経堤が形成されるよりも早い段階で頭部形成に異常が認められた事から、p2ry4が神経堤細胞においてどのように働いているのかについては明らかとなりませんでした。しかし、進化の過程で脊椎動物だけにその存在が認められるp2ry遺伝子ファミリーが、脊椎動物を定義するともいわれる神経堤細胞に強く発現がある事や、頭部形成過程に関与している事と考えあわせると、p2ry遺伝子の獲得と頭部構造の獲得の間に何か重要な意味があるようにも見えてきます。p2ry4の予定神経外胚葉における発現や神経堤細胞、プラコードにおける局在ついても詳細に調べることで、発生過程におけるp2ry4の異なる働きやP2Y受容体と脊椎動物の頭部形成、進化的な意義についても知ることができると期待しています。

Harata A, Hirakawa M, Sakuma T, Yamamoto T, Hashimoto C. (2018)
Nucleotide receptor P2RY4 is required for head formation via induction and maintenance of head organizer in Xenopus laevis
Develop. Growth Differ. DOI:doi.org/10.1111/dgd.12563

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 脊椎動物の頭部構造は、外部感覚器官を持ち、脳が頭蓋骨によって覆われているといった無脊椎動物は持たない複雑な頭部構造を進化の過程で獲得してきました。私たちは, 脊椎動物がどのようにして特殊な頭部構造の獲得し得たのかを知るためのヒントとして、 脊椎動物にのみ存在し, 脊椎動物種間での保存性が高く、且つ、将来頭部となる領域に限局して働くアフリカツメガエル胚のP2Y受容体の役割に注目してきました。P2Y受容体とは、Gタンパク質共役型受容体の一つであり、細胞外に放出されたヌクレオチドによって活性化され細胞内の環境を調節しています。これまでの研究では、初期発生過程におけるP2Y受容体の役割はほとんど明らかにされていませんでした。

 今回の研究では、アフリカツメガエルのP2Y受容体の中でも特に近縁であるP2Y1とP2Y11が頭部形成に関わる領域に発現することを示し、さらにそれら遺伝子の機能阻害実験を行うことで, それぞれの遺伝子が頭部形成過程において重要な役割を担っていることを明らかにしました。具体的には、両者とも神経領域と表皮領域が決まる原腸胚期から発現が確認でき, その後は, 神経領域や頭部構造の大部分を構築する神経堤細胞やプラコード等に局在していました (図1)。また、それぞれの機能阻害を行なうと, 頭部構造の大部分が欠損しており (図2), 頭部形成過程にこれらの遺伝子が大きく関与していることが示されました。さらに、頭部が形成される初期過程で様々な遺伝子マーカーの発現への影響を調べた結果、頭部領域が決まる神経誘導にP2Y1やP2Y11が関わっていることが示唆されました。これらは、脊椎動物にのみその存在が認められる遺伝子である事、また、脊椎動物を定義すると言われる頭部の形成に重要である事から、進化における脊椎動物の出現の際に重要な役割をしたとも考えられます。

図1 P2Y1とP2Y11の発現パターン
P2Y1,P2Y11共に原腸形成期から、原口(赤矢じり)付近で将来、頭部が形成される領域に強い発現が確認された。神経形成期では, 頭部形成期に必須である神経堤細胞やプラコードでの局在が、また尾芽胚期では中枢神経系に強い発現が見られた。

図2 P2Y1とP2Y11の機能阻害によってもたらされた頭部構造の欠損
上段:対照実験(COMO)では、頭部構造が左右対照であるのに対して、機能阻害実験を行ったオタマジャクシ(P2Y1MO,P2Y11MO)では阻害処理を施した側(黄矢じり)で頭部構造の顕著な萎縮が見られた。下段:オタマジャクシの頭部骨格は、対照実験では、正常な形態を保っていたが、機能阻害実験を行なったオタマジャクシの頭部骨格は形成不全を起こしていた。

Harata A. Nishida H. Nishihara A. Hashimoto C. (2016)
Purinergic P2Y Receptors Are Involved in Xenopus Head Formation
CellBio, 5: 49-65 DOI: 10.4236/cellbio.2016.54004

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13年前に私たちは、アフリカツメガエルを用いた研究から両生類の原腸形成過程を示すモデルを公表しました(Koide et al. 2002)。その論文では、原腸胚のかなり早い時期に胚の赤道領域で頭部オーガナイザーが予定頭部神経と接することを示しました(図1)が、一般に信じられているモデルと大きく異なることや、ツメガエルが両生類の世界では特殊だと考えられていたことなどから、世界的に受け入れられずにいました。そこで今回は、ツメガエルで提示したモデルが両生類に一般化できるかを確かめるために、広範囲の両生類種を用いて解析を進めたところ、研究に用いたすべての両生類において、杖が得ると基本的に同じ機構で原腸形成が進んでいることが明らかとなりました。

また、前回の論文では頭部オーガナイザーと予定頭部神経組織が接する時期と場所について明らかとしましたが、それ以前にオーガナイザーがどのような動きにより予定頭部神経組織と接するのかについては不明なままでした。今回、オーガナイザーの動きを詳細に解析したところ、有尾両生類(アカハライモリ)・無尾両生類(ツメガエル)において新しい組織運動を見いだし、サブダクション&ジッパリングと名付けました(図2)。このオーガナイザーの動きは、原索動物の動きと高い類似性を示し(図3)、またニワトリのヘンゼン結節の動きにもよく似ていることがわかり(図4)、両生類の原腸形成機構が脊索動物門に共通するモデルになりうる可能性が出てきました。鳥類や哺乳類の原腸形成過程は細胞増殖を伴い、胚自体の大きさが変化しますので、組織の動き自体を抽出するのが難しいのですが、この両生類のモデルに当てはめて見直すことで本質的な解析が可能となるかもしれません。


図1 従来のモデルと新しいモデル


図2 サブダクションとジッパリング


図3 原索動物と両生類の原腸形成運動比較


図4 羊膜類と両生類の原腸形成運動比較

Yanagi T. Ito K. Nishihara A. Minamino R. Mori S. Sumida M. Hashimoto C. (2015)
"The Spemann organizer meets the anterior-most neuroectoderm at the equator of early gastrulae in amphibian species" Development, Develop.Growth Differ . DOI: 10.1111/dgd.12200

 両生類のオーガナイザーは、切り取る時期に応じてその活性が異なり、原腸胚後期の原口背唇部を切り取って移植した場合には尾部の形成が誘導され、この移植された組織を「尾部オーガナイザー」と呼ぶ。尾部オーガナイザーはこれまでに一部の有尾両生類による報告はあったものの、アフリカツメガエルでは移植によって尾部の形成を誘導することは見られていなかった。

 今回、後期胞胚・初期原腸胚の胞胚腔の屋根を傷付けることで、移植片の存在無しに異所的な尾部の形成が誘導されることが分かった。この異所的な尾部形成過程に発現する種々の遺伝子は本来の尾部形成に必要な遺伝子と一致し、また、本来の尾部形成を阻害することが知られているFGFの阻害をすることで、異所的な尾部形成も阻害されることが分かり、この「傷つけ」による尾部形成機構は本質的に正常発生過程で本来の尾部が生じる機構に等しいことが示された。さらに、この異所的な尾部形成は、「傷つけ」自体によって誘導されるのではなく、傷付けたことで胞胚腔が潰れることで胞胚腔の屋根と床が物理的に接することによることが示された(図1)。

 この胞胚腔の屋根と床の接触は、原腸形成後期に尾部形成領域で見られる組織同士の接触によく似ており、尾部形成過程にオーガナイザーと呼ばれる魔法の機能領域を持ち出さなくても、正常な形態形成運動によって、「正しい時期に正しい組織同士が接触することで本来の場所に正しく尾部を形成させるのではないか?」という新しい考えもできる。ツメガエル以外のいくつかの両生類で見られる「尾部オーガナイザー」に関しても、誘導という概念ではなく組織の接触という立場から見たときに新しい発見があるのかもしれない(図2)。

 また、この異所的な尾部形成は、発生の比較的早い時期に簡単に誘導でき、複雑な形態形成過程を踏まないことから、尾部形成の分子機構を詳細に解析する優れた実験方法となる可能性を示唆する意味でも重要だろうと感じる。


図1 正常発生させた胚(A)と胞胚腔の屋根に傷付けて逆さ向けた胚(B)

図2 人為的に胞胚腔の屋根と床を接触させたとき(A)と、正常発生過程で尾部の形成が起こる領域(B)。

Nishihara A. and Hashimoto C. (2014)
"Tail structure is formed when blastocoel roof contacts blastocoel floor in Xenopus laevis" Develop.Growth Differ. 56, 214-222

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  • この論文は、DGD奨励賞(DGD Young Investigator Paper Award 2015)
    を受賞しました。受賞理由はこちら

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