宮田 隆
宮田 隆の進化の話
最新の研究やそれに関わる人々の話を交えて、
生きものの進化に迫ります。
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【オスは進化の牽引役:
Male-Driven Evolution Theory (オス駆動進化説)】
2005年6月1日
宮田 隆顧問
 突然変異は進化の素材であり、進化を考える上での最も基本的な因子である。ここでは進化に寄与する突然変異が話の中心である。まず、生殖細胞の分裂数になぜ雌雄差が生じたのか、そしてその雌雄差から、「オスが進化を牽引する」というオス駆動進化説がいかに導かれたか、そしてその理論はトリによってみことに立証された、というストーリーを順に述べてみたい。

雌雄差の起源
突然変異の要因
オス駆動進化説:理論
オス駆動進化説証言者:トリ
遺伝子によるオス駆動進化説の検証

雌雄差の起源
 卵と精子の話から始めよう。われわれ人間では、どの国でも平均すると男性は女性より体が大きいが、これは動物全体でいえる特徴ではない。チョウチンアンコウのオスのように極端に体を小さくしてメスに寄生し、もはや生殖器官化してしまっているような例もある。さまざまな雌雄間の違いのうちで、動物界を通じてオスとメスを明瞭に区別する基本的特徴がある。それは配偶子(卵と精子)、すなわち生殖細胞の雌雄差である。オスの配偶子(精子)はメスの配偶子(卵)に比べてサイズが極端に小さく、ヒトの場合、卵は直径0.15mmほどだが、精子は長さにして0.06mm程しかない。形態的にも明瞭な違いがある。卵は球形で、将来の胚の発生に必須の養分が詰まっている。精子は頭部にエネルギー変換装置のミトコンドリアをぎっしり詰め込み、鞭毛まで備えることで高い運動能力を獲得している。こうした運動性は、精子間の競争を勝ち抜き、卵を見つけて速やかに結合する上で有利な形質である。
 配偶子の生産様式も雌雄間でだいぶ違っている。ヒトの場合、発生の比較的早い時期に600万個ほどの卵が一斉に作られる。その後は卵の生産はなく、生殖年齢に達すると1つずつ排卵する。一方、精子は生殖年齢に達した時点で作り始められ、その後連続的に作られる。一回の射精で億の単位の精子が放出される。
 なぜ配偶子間でサイズも数もこれほどまで違うのであろうか。これには現在もっともらしい説明がある。どの生物も配偶子が極端に違っているわけではない。カビの仲間では同形配偶(isogamy)といって、有性生殖は見られるものの、配偶子の雌雄差は見られないものがある。おそらく配偶子の原始的形態はこんなものであったと想像される。
 雌雄の区別のない同形の配偶子の一つに突然変異が起き、平均よりわずかに大きな配偶子が現れたとしよう。この変異は平均的なサイズの配偶子に比べて子孫を残す上で有利に働いたと思われる。なぜなら大型配偶子に由来する胚は平均よりも十分な食物の供給が得られるからである。こうして大型の配偶子が広まり、より大型の配偶子へと進化していったと考えられる。こうした大型の独立栄養的配偶子が進化していく状況下で、平均よりわずかにサイズが小さい配偶子が現れる。サイズを節約した分、数を増やすことが可能になる。この配偶子が取った戦略は大型の配偶子とうまく合体して食物供給の豊富な胚へと分化することで、自身のDNAを首尾よく残していこうという、いわばたかり的戦略である。その結果、無駄を省いてより小型になり、配偶子の数もますます増加していったであろう。精子の数が増えると精子間競争が激化し、速やかに卵と合体するために運動性を高める方向へと進化していったと考えられる。こうして精子は従属栄養的配偶子への進化の道を突き進んだのだ。
 将来の胚が正常に発育するための十分な栄養を貯めこんだ大型で独立栄養的な配偶子への進化という卵の戦略と、卵との合体を高める方向への従属栄養的な配偶子への進化という精子の戦略とが、配偶子の形態と生産様式に著しい雌雄差をもたらしたのである。オスの起源はたかりと利己性にあり、一方メスは、自身のDNAを残すという点では利己的だが、子供の無事な成長を願った慈愛に満ちた利他性に起源している。偶然とはいえ、この最初の戦略が尾を引き、「三つ子の魂百までも」のことわざ通り、その後の形態と行動の雌雄差全般に色濃く反映するに至った。前者に属する我が身の因果のなんとも悲しいことか。
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突然変異の要因
 次に突然変異を起こす要因を考えてみよう。それが上で述べた配偶子の雌雄差とどう関わるかを考えてみる。はじめに断っておくが、ここでは進化を問題にするので突然変異は遺伝しなければならない。すなわち、生殖細胞に起きた突然変異が問題になる。それ以外の細胞、すなわち体細胞に生じた突然変異は問題にしない。進化に寄与する突然変異の主な要因として2つ考えられる。一つは地球上に降り注ぐ放射線のような物理的要因と、もう一つは生物学的要因で、生殖細胞の分裂に際して、DNAが複製されるが、その際生じるDNAの複製エラーである。一億年ほどの長いタイムスケールで眺めると、脊椎動物ではちょうど時計の針が時を刻むように、一定のペースで塩基やアミノ酸の変化を伴う進化がDNA上に起きている。このことを分子進化速度の一定性、あるいは分子時計と呼んでいる(本シリーズ宮田 隆の進化の話、「パラダイムシフト:分子進化の中立説」を参照)。分子時計で考える時間は物理的な絶対時間で、世代の長さのような生物的時間ではないことに注意すべきである。
 一つの遺伝子に起きた突然変異は大雑把に、変異を受けた個体の生存にとって不利な変異と有利な変異、及びそのいずれでもない、すなわち中立は変異とに分類される。ところで、分子進化の中立説によると、分子の進化速度は機能的制約の強さと、突然変異率とによって決まる。分子時計を問題にする場合は、同じ分子を異なる生物間で比べているので、機能的制約は同じなので考えなくともよい。機能的制約は異なる分子の進化速度を比べるときに重要になる。分子時計とは進化速度が一定ということだから、中立説によると、突然変異率も一定ということになる。これは突然変異の要因が放射線であると考えると、つじつまが合う。なぜなら、放射線は年あたり一定の割合で地上に降り注いでいると考えられるからである。
 一方、タイムスケールを、例えば100万年の単位にして眺めると、分子進化速度は必ずしも一定ではなく、生物の系統によって、かなりのバラツキがみられる。例えば、ネズミなどの齧歯類は他のほ乳類と比べて、速い速度で進化していることが知られている。ネズミは僅かな時間で大人になり、子どもを生むので、すなわち、一世代の長さが短いので、そのぶん年当たりのDNA複製回数が多くなり、進化速度は速くなる、と説明されている。つまり、このネズミの速い進化速度はDNAの複製エラー説を支持する。
 同じことを、他の哺乳類についても見てみると、世代の長さと進化速度の間には関係がありそうで、一世代の長さが長いと、進化速度が逆に遅くなっている。ウイルスは寄生している宿主に比べ、数十万から数百万倍ものスピードで進化する。また、同じウイルスでも、感染性の強いウイルスと、弱いウイルスを比べると、強いウイルスは速い速度で進化している。こうした速度の違いもまた複製エラー説に有利である。現在、進化に寄与する突然変異の大部分はDNAの複製エラーであるという考えが一般的である。
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オス駆動進化説:理論
 突然変異の要因がDNAの複製エラーだとすると、大変重要なことに気づく。上で述べてきたように、生殖細胞の分裂数には性差がある。個体の一生の間に、精子の分裂数は卵の分裂数に比べてずっと多い。細胞の分裂のたびにDNAの上に一定の頻度でエラーが生じるから、精子の突然変異率は卵の突然変異率に比べて圧倒的に高いことになる。そうなると突然変異の大部分は精子で作られるということになる。分子進化の中立説に従うと、突然変異率は直接、分子の進化速度に反映するので、進化はオスが支配するという考えが生まれる。
 この考えを確かめるには、直接卵と精子の分裂数を測定してあげればよいのだが、この測定は実際には難しい。しかし他にうまい方法があった。筆者らは1987年、生殖細胞の分裂数に性差があると、生じる突然変異率が異なる染色体の間で違ってくることを、簡単な考察から示すことに成功した。しかも染色体の間の突然変異率の違いは、塩基配列のデータから検証できるのである。以下でそれを示そう。
 染色体はオスとメス両方が共通に持っている常染色体と、性に関係する性染色体とに分けられる。性染色体は、ほ乳類では、X染色体とY染色体からなる。通常染色体は対で存在し、例えばヒトは22対の常染色体と、一対の性染色体を持つ。X染色体が2つで対を作れば女性に、X染色体とY染色体が対を作ると男性になる。簡単のため、常染色体、X染色体、Y染色体をそれぞれ、A、X、Yと略記し、染色体の対を、AA、XX、及びXYと書くことにする。また、哺乳類のような染色体の対合形式をXX♀/XY♂システムと略記することにする。
 次に、生殖細胞の分裂回数に関する性差を導入しよう。精子の分裂数と卵の分裂数の比率をα(=精子の分裂数/卵の分裂数)としよう。上で述べたように、一般にα>1である。突然変異はDNAの複製エラーに起因するというのが大前提だから、突然変異率は生殖細胞の分裂数に比例し、従って、もしある染色体がオスを経由したらαに比例し、メスを経由したら1に比例する。
 さて準備が整ったので、以下で特定の染色体に生じる突然変異率を推定してみよう。まず常染色体から始めよう。よく知られているように、対で存在している一方の染色体はオスに由来し、他方の染色体はメスに由来する。従って、AAのうち、どちらか一方に注目すると、その染色体がオスから来た、つまり精子に運ばれてきた確率は1/2で、そのときαだけの突然変異が生じるので、結局オス経由では突然変異率MA(♂)は(1/2)・αに比例する。同様にある常染色体がメス経由、つまり卵に運ばれてきたなら、その確率も1/2で、そのとき1だけの突然変異が生じるから、メス経由では突然変異率MA(♀)は(1/2)・1に比例する。1つの染色体がオスを経由するか、メスを経由するかは排反事象だから、結局常染色体の突然変異率MAは
MA = MA(♂) + MA(♀)  ∝(1+α)/2
となる。
 Y染色体ではどうか。XYのYに着目すると、Yは常にオスにのみ存在するので、オスを経由した確率は1で、メスを経由した確率は0となる。従って、Y染色体の突然変異率MYは下のようになる。
MY = MY(♂) + MY(♀)  ∝ 1・α = α
 最後にX染色体を考えよう。X染色体はメスはXX、オスはXYの対合であったから、一つのXがオスに運ばれる確率は1/3で、そのときαだけの突然変異が起こるから、オス経由の突然変異率MX(♂)は(1/3)・αに比例する。一方、1つのXがメスに運ばれる確率は2/3だから、メス経由の突然変異率MX(♀)は(2/3)・1に比例する。従ってX染色体の突然変異率MXは
MX = MX(♂) + MX(♀)  ∝ (α+2)/3
となる。もし生殖細胞の分裂数に雌雄差がなければ、すなわちαが1に等しければ、MA、MY、 MX、はすべて等しくなる。
 MA、MY、 MX、の比例常数が分からないので、MAに対する相対突然変異率を導入しよう。すなわち、RY = MY/ MA、 RX = MX/ MA 。それぞれαで具体的に表現すると以下のようになる(αが非常に大きい場合、すなわち精子の分裂数が卵の分裂数に比べて圧倒的に大きい場合の極限値も示す):
RX = (2/3)(2 +α)/(1 +α) ;RX → 2/3 (α→∞)、
RY = (2α)/(1 +α) ;RY → 2  (α→∞)、
RA = 1 ;RA → 1  (α→∞).
 相対突然変異率はαの全領域(α>1)に対して、RY >RA >RXの関係が常に成り立つ。αが非常に大きい極限では生じる突然変異率の比は、A :Y: X = 1 : 2: 2/3となる。こうして、生殖細胞の分裂回数に性差があると、X染色体の突然変異率が最も低く、ついで常染色体で、Y染色体が最も高い突然変異率を持つことになる。もし、卵と精子の分裂回数に差がなければ、どの染色体も同じ突然変異率となる。
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オス駆動進化説証言者:トリ
 突然変異率が染色体間で異なってくるのは、常染色体と性染色体の対合のしかたに依存して、オスを経由する割合が染色体間で異なってくるからである。従って対合が違っている生物のグループでは染色体間の突然変異率も違ってくる。哺乳類が持つXX♀/XY♂システムでは、オスが性染色体をヘテロに持つが、トリなどのZW♀/ZZ♂システムでは、逆にメスが性染色体をヘテロに持つ。ここでZ染色体はX染色体のことで、W染色体はY染色体のことである。さてトリではY染色体(すなわちW染色体)がメスによってのみ運ばれるので、Y染色体の突然変異率は、哺乳類とは逆に、非常に小さくなると期待される。XX♀/XY♂システムと同様の解析から、常染色体に対する性染色体の相対突然変異率RZ、RW、RA ,は以下のようになる:
RZ = (2/3)(1+2α)/(1 +α) :RZ → 4/3 (α→∞)、
RW = 2/(1 +α) ;RW →非常に小さい(α→∞)、
RA = 1 ;RA → 1  (α→∞).
 予想通り、ZW♀/ZZ♂システムの相対突然変異率はαの全領域(α>1)に対して、XX♀/XY♂システムとは逆に、RZ > RA > RWの関係が常に成り立つ。αが非常に大きい極限では生じる突然変異率の比は、A :Z: W = 1 : 3/4 : o(1/α)(非常に小)となる。
 これまでに述べてきた突然変異率及び相対突然変異率をXX♀/XY♂システムとZW♀/ZZ♂システムで比較して図1にまとめた。哺乳類と鳥類での染色体突然変異率の逆転は興味深い。なぜなら、X染色体の低い突然変異率は、X染色体には非常に重要な遺伝子が存在するため、他の染色体より突然変異率が低く抑えられているという説があるからである。すなわち、X染色体の低い突然変異率は、他の染色体と比べてオスを経由する割合が少ないためではなく、そもそもX染色体上の突然変異は強く制約を受けていて、そのため低く抑えられているのだと主張する。このX染色体制約説は、突然変異率を染色体間で比べるだけでは、オス駆動進化説と区別がつけにくい。しかし、トリなどのZW♀/ZZ♂システムでは、突然変異率が説によって正反対の結果を予想する。すなわち、オス駆動進化説ではZ > A > Wの順に突然変異率が増加するが、X染色体制約説では逆に、W > A > Zの順になる。従って鳥類での解析が極めて重要になってくる。
図1. 突然変異率及び相対突然変異率のα依存性
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遺伝子によるオス駆動進化説の検証
 分子進化の中立説によると、単位時間当り集団中に固定する変異数、すなわち進化速度kは総突然変異率μに比例する、すなわち、k∝ f・μである。ここで f は総突然変異のうち、淘汰に中立な突然変異の割合で、残り1− f は有害で進化に寄与しない(淘汰に有利な変異は数においてきわめて少ないので無視できる)。1− fは機能的制約と呼ばれる量と関連する量で、一般に生命維持に重要な遺伝子ほど大きくなり(中立の割合が減少し)、その遺伝子の進化のスピードが遅くなる(k〜0)。逆に機能を完全に失った偽遺伝子では変化に対する制約がまったく無く(1−f=0)、進化のスピードは最大になる。この関係式は中立説から導かれる最も重要な結論の一つで、分子進化における種々の観察事実をうまく説明する(本シリーズ、「パラダイムシフト:分子進化の中立説」及び「制約からの解放と革新への道」を参照)。
 タンパク質をコードしている遺伝子のコード領域の塩基配列を異なる種間で比較すると、進化に関する興味ある二つの量が得られる。コード領域内のあるコドンの塩基を別の塩基で置き換えると、そのコドンがコードするアミノ酸が変わらない場合(同義置換)と変わる場合(非同義置換)とがある。アミノ酸置換を起こす座位が非同義座位であり、起こさない座位が同義座位である。同義座位に起きた塩基置換はコードされているアミノ酸を変えないので、タンパク質に何の変化も起こさない。したがって同義座位では変化に対する制約が極めて弱く(すなわち、f≒1)、同義座位での進加速度はほぼ突然変異に等しくなる。同じように、イントロンでもf≒1で、同義座位とほぼ等しいスピードで進化する。従って、同義座位やイントロンでの変異は突然変異率を直接反映するので、これらを解析することで、オス駆動進化説の検証ができることになる。こうして、常染色体や性染色体上にある遺伝子の同義座位やイントロンの進化速度を定量することで、この理論を分子生物学に乗せることができ、遺伝子の解析を通して理論の正否を確かめることができるのである。生殖細胞の分裂数に雌雄差があると染色体間で突然変異率が異なってくるという発見が鍵になったわけである。
 上で述べてきた、常染色体に対するX及びY染色体の相対突然変異率RX及びRYは、同義座位やイントロンではf≒1であることを考慮すると、
RX ≒ kX/kA, RY ≒ kY/kA,
から近似的に計算できる。ここで、kX, kY 及びkAはX,Y及び常染色体上に存在する遺伝子の同義座位やイントロンの進化速度を表し、普通それぞれ遺伝子の配列を異なる種間で比較することで得られる。すなわち、相対突然変異率は近似的に相対進化速度(RX’ = kX/kA, RY’= kY/kA)として与えられる。また、RX’、RY’それぞれからα(=精子の分裂数/卵の分裂数)が逆算できる。
 著者らが理論とともに、最初に発表した解析結果を図2に示した。RY’=2で、理論の予測と良く一致する。これまでヒトを含む霊長類の異なる種間、ネコ科に属する多数の種間、ヒツジ、ヤギなどの偶蹄類の種間で配列の比較が行われ、いずれもαが1に比べてずっと大きい。多数の遺伝子に対してヒトとマウスの間で配列比較が行われ、平均としてα=6という結果を得ている。
図2. ヒト・アルギニノサクシネートシンテターゼ(AS)偽遺伝子による常染色体に対するY染色体遺伝子の相対進化速度
第7及びY染色体の偽遺伝子はプロセストタイプの偽遺伝子で、3’側の同じ位置にAlu配列が存在するので遺伝子重複の産物.
K(a-7)とk(a-Y)は遺伝子重複以降現在に至る間に、それぞれの系統で蓄積した置換数.これらから相対進化速度が計算される.
 1987年に理論が発表されて以来、オス駆動進化説と上で述べた制約説との間で論争が続いたが、哺乳類のXX♀/XY♂システムの解析に基づいた議論であったため、なかなか最終結論を得るまでに至らなかった。2つの説で正反対の結果が予想されるトリのZW♀/ZZ♂システムの解析が待たれた。理論の発表以来ちょうど10年経った1997年、スウェーデンのグループがクロノヘリケースDNA結合タンパク質をコードしている遺伝子をスズメ目に属する5種のスズメから単離し、種間で配列比較を行った。その結果はオス駆動進化説が予言したとおり、哺乳類とは逆に、Z染色体(X染色体に対応)はW染色体(Y染色体に対応)に比べ、高い同義置換速度を示した。こうしてオス駆動進化説の信憑性がいっきに高まった。
 現在、哺乳類と鳥類以外に、魚類(メダカ)で理論の検証がなされている。爬虫類や両生類での検証はまだなされていない。理論的には無脊椎動物に対しても理論が成り立つと予想されるが、今のところ解析が進んでいない。上で述べてきた方法は、オスとメスで染色体の使い方が異なる場合に有効であるが、そうでない場合、あるいはまだ明らかでない場合には、オス駆動進化説を確認するためには別の解析法が必要であろう。
 すでに1910年代にワインベルグ(ハーディー&ワインベルグの法則の発見者)は興味深い観察を行っている。子供の出生時における父親の年齢と軟骨発育不全症を持つ子供の出生率の間に明らかな正の相関があることを発見している。一方、子供の出生時における母親の年齢との間には相関が見られない(図3)。これはオス駆動進化説と矛盾しないデータである。臨床医学の分野でこうしたデータが眠っている可能性があろう。
図3. 子供の出生時における父親の年齢と軟骨発育不全症を持つ子供の出生率の関係
 これまで高齢で子供を持つことのリスクが母体に対してのみ言及されてきた。オス駆動進化説がほぼ定着した現在、男性が高齢で子供を持つことは生まれてくる子供にリスクがあることを言及しておきたい。臨床医学的データに基づく定量的解析が必要であろう。
 もう一つの今後に残された問題点としてαの値がある。生殖細胞の分裂様式が必ずしも明らかでないが、αは非常に大きな値になると期待されるが、実際にデータでは、1よりはずっと大きいが、無限大ではなく、比較的小さな一桁の値を取る場合が多い。このことに関して、これまでのデータは非常に近縁な種間での解析が重要であることを示唆している。それにしても進化はどこまでマッチョなのか?
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