進化研究を覗く

顧問の西川伸一を中心に館員が、今進化研究がどのようにおこなわれているかを紹介していきます。進化研究とは何をすることなのか? 歴史的背景も含めお話しします。

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ゲノム誕生に関するRoot-Bernsteinの考え

2016年5月2日

ゲノムや生命の誕生について、これまで自分勝手な作り話に基づいて話を進めてきたので、「信用ならん!」と不快に思った読者も多いと思う。一つの仮説を皆さんに押し付ける意図は全くない。実際、38億年前に何が起こったのかを特定することはほぼ不可能だろう。期待したのは、多くの読者が、無生物から生物を発生させることが可能だと思ってくれることだ。

この文章を書き始めた時、無機分子から有機分子、そしてゲノムや生命の誕生など、考える糸口を見つけることすら難しいだろうと思っていた。ところが書き始めて1年もすると、生命誕生について合理的なシナリオを考えること自体はそんなに難しいわけではないと思うようになってきた。そして今は、21世紀にここで述べた様な幾つかのシナリオが必ずだれかによって実験的に確かめられると確信している。

繰り返すが、ゲノム誕生についての個人的理解をくどくどと語ってきた最大の目的は、無機物からの生命の誕生が、多くのシナリオが考えられる、当たり前の科学になりつつあることを皆さんに理解してもらうためだった。

そこで今回は、Root-Bernsteinという研究者が最近の論文で提案しているシナリオを紹介することで、前回述べたRNAワールドからゲノム情報が誕生するまでの過程をもう一度整理したいと思っている。ほとんどの読者にRoot-Bernsteinという名前は馴染みがないだろうが、シナリオは面白く説得力が高い。

図1Root-Bernsteinの論文(Root-Bernstein & Root-Bernstein, J. Theo Biology 367: 130-158, 2015)に基づいて私が書き直したシナリオ。

まずこのシナリオについて、図1を使いながら簡単にまとめてみよう。このシナリオでは、原始リボゾームを、まだ生物ではないが、独自に、代謝、複製、情報による翻訳と進化の能力を獲得した独立した単位だと考えている。

すなわちリボゾームは、

  1. 1)RNAワールド維持に必要なリボザイムセット、
  2. 2)自己の塩基配列に基づく自己複製、自己の一部として存在するtRNAとアミノアシル化tRNA合成リボザイム機能、
  3. 3)ペプチド転移反応を触媒するリボゾーム中心機能、
  4. 4)そしてこれ以外の機能を持ったペプチド合成の鋳型として働くmRNA、

の全てが備わった独立単位として考えられている。

エネルギーや物質代謝については、まだまだ独立しているとは言えないが、熱水噴出孔など自然の条件さえ整えば、Ottoの複製子のように複製、進化も十分起こりうる。しかも、複製時の情報としてだけでなく、アミノ酸に対応する記号化された情報も持っており、これにより様々なペプチド鎖を繰り返し合成し、また進化・多様化させることが可能になっている。例えると、適切な環境条件に寄生するウイルスが誕生したと言ってもいい。

これまで私の話に付き合っていただいた読者なら、Root-Bernsteinの仮説を荒唐無稽だと拒否することはないだろう。ただ、本当に生命誕生の途中段階で、ここに描いたような多様な機能を同時に表現したリボゾームが存在したことを証明できるかが問題だ。これについて、彼らは過去に存在した機能の痕跡は、現存のrRNAにも必ず見つかると考え、研究を続けている。

事実、1983年Blochらは現存のrRNAの配列内に、tRNAの配列の一部が頻回に現れることに気がつき、rRNAとtRNAは同じRNA分子から進化した可能性を示唆した(Bloch et al, J Mol Evol , 19:430-428, 1983)。この発見はその後他のグループでも確認されているが、Root-Bernsteinは彼らのシナリオを提案するにあたって、まずこの可能性を詳しく再検討している(Root-Bernstein and Root-Bernstein, J. Theretical Biology 367:130-158, 2015)。

図2は彼らの論文の図2、図3から転載したものだが、現存の大腸菌のrRNAにも、ほぼ全てのアミノ酸をカバーするtRNAの配列の一部が散らばっていることがわかる。

図2:現存の大腸菌の16S,23S rRNA配列の中に発見された、20種類のtRNA配列。(上記論文より転載)

さらに、こうして大腸菌rRNA内で特定したRNA配列が、tRNAの機能を持つかどうか立体構造を計算してみると、図3に示すように、現存のtRNAによく似た構造を取れることがわかる。


図3 rRNA内から抽出したAsn-tRNA(アスパラギン酸tRNA)の相同配列の理論的立体構造。実際のAsn-tRNAとよく似ていることがわかる。

このように、現存の20種類全てのtRNAに、配列上でも、構造上でも相同な配列がrRNAサブユニットの中に発見できるなら、tRNAとrRNAが同じ先祖RNAから進化したことは言うまでもなく、図1に示したようにrRNA自体がいくつかのtRNAが重合してできたものと考えた方が自然だ。

Root-Bernsteinらはこの点について明確には言明していないが、例えばdeFariasらは、まずアミノ酸との相互作用が可能になったtRNAが多様化し、次にtRNA同士が集まってrRNAのサブユニットを形成したというシナリオを提案している(deFarias et al, Life 6:15, 2016)。

図4はdeFariasらの論文から転載したものだが、tRNAは、その本来の機能であるアンチコドンも、また現在mRNAが担うコドンも両方備えており、それが重合することで、rRNAがmRNAとtRNAの両方の機能が備わった単位になるというシナリオを提案している。

さて、図1と図4をよく比べると、原始リボゾームをRNAワールド本来の代謝や複製に加え、転写翻訳のための全システムが備わった独立した単位として考える点では、図1で示したRoot-Bernsteinらの考えとほぼ同じと言っていいだろう。


図4 deFarias et alらの論文( Life 6:15, 2016)より転載した、原始リボゾーム形成過程の説明。

さてこのシナリオでは、原始リボゾームで最初作られていたタンパク質は、専らこのrRNAにコードされたtRNAやmRNA、そしてrRNAを安定化する作用を持っていたと考えられている。というよりは、安定化に関わるペプチドやタンパク質を作る情報を持つrRNAが自然選択されたと考えている。即ち、リボゾームが自然選択をうける一つの単位として完成していることがよくわかる。

では、本当にrRNAの中にタンパク質やペプチドをコードする配列は存在したのだろうか。例えば現存のrRNAには50種類以上のタンパク質が結合しているが、これらはrRNAにコードされているのではなく、rRNAをコードするゲノム部分とは異なる場所にコードされている。

実験の詳細は省くが、それぞれの配列の比較からRoot-Bernsteinらは、先に列挙した

  1. 1)リボゾームタンパク質をコードする配列、
  2. 2)rRNAの複製を支えるRNAやDNAポリメラーゼの配列
  3. 3)核酸代謝に関わる酵素の配列
  4. 4)これ以外の機能を持った、ペプチド合成の鋳型として働く配列、

の全てが、実際にrRNAの中に特定出来ることを示している。

このことは、最初rRNAの安定化に関わるタンパク質を合成していたリボゾームが、効率の悪いリボザイムに頼っていたRNA複製機能や、アミノアシル化tRNA合成機能をタンパク質に置き換える中心的役割を担ったと考えられる。

図5は、大腸菌の23S,16S,5SrRNA内にそれぞれ認められる現存のタンパク質をコードする配列の断片をプロットしたものだが、赤で示したリボゾーム結合タンパク質以外に、DNAやRNAポリメラーゼやtRNA合成酵素を含む多くの機能タンパク質遺伝子に対応する配列がrRNA内にこれほど認められるのは驚きだ。


図5:様々なリーディングフレームにおけるtRNA及びタンパク質の位置を示したマップ。

これらの結果を基礎に、Root-Bernsteinたちは、地球上のタンパク質の全ては、このrRNA内にコードされていた遺伝子に由来するのではと提案している。

以上、今回紹介したRoot-BernsteinやdeFariasらのシナリオをもう一度まとめると次のようになる。

  1. 1)原始rRNAはRNAワールドのから誕生した、独立したゲノムを持ち進化可能な最初の単位。
  2. 2)原始rRNA内には、ペプチド転移反応を媒介するリボザイム、tRNA、ペプチドをコードする遺伝子が存在していた。
  3. 3)当時の痕跡が、現在もrRNA内の配列の中に残っている。
  4. 4)rRNAで作られたタンパク質は、最初rRNA安定化に関わる分子だけだったが、これ以外の多様な機能(例えばrRNAの増殖)が、ダーウィン進化の結果次々と誕生した。

ただ、rRNAはいくら脂肪膜で囲まれていたと言っても、生物ではない。次回は、このrRNAからLUCAへの道を考えてみたい。

[ 西川 伸一 ]

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