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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【結果、良ければ・・・】

秋山-小田 康子

 私が大学院生の頃所属していた研究室は非常に自主性を重んじること(言い換えれば、超放任主義?)で有名なところでした。(ちなみに生命誌カード42号で紹介されている堀田凱樹先生の研究室です。)とはいっても、さすがに入りたての頃は先輩方から徹底的に分子生物学的な実験を教え込まれたものです。当時の新入生のほとんどは、助手のMさんから実験を習うことが多かったのですが、しばらくして面白いことに気付きました。同じように教わったはずなのに数年経つとみんなそれぞれ少しずつやり方が違っているということです。例えば、アガロースゲルからDNAの目的のバンドを切り出して精製する時に、先輩のHさんは教わったよりもずっと丁寧にビーズを洗い、溶出にも時間をかけるようになっていました。同級生のSくんは、とにかく忠実にMさんの教えを守り、私はというと、いかに手を抜けるかということを重要視して随分簡略化していました。さらに先輩のKさんは他の研究室から情報を仕入れて、全く別の、カラムを使う方法で行うようになっていました。もちろんみんなアガロースゲルからDNAを抽出するという結果に関してはなんら問題はなく、充分その目的を達していました。当時はなんだか伝言ゲームみたいでおもしろいなと思っていただけでしたが、最近、生物の進化のことを考えるようになって、あの時見ていたみんなの行動が「ミニ進化」というか「疑似進化」というか、進化の一端を思い起こさせるようなものだったなと感じるようになりました。
 私は動物の胚発生の仕組みを比較することから、動物がグループごとに似たような形態をしていること(例えば節足動物はみんな外側が体節でくびれていて、脊椎動物には背骨があるというレベルで似ているということ)を理解したいと思って研究しています。そしてこれは動物グループ間の形態的な違いを知ることにもつながっていき、動物グループ間の系統的な関係に関しても新しいことが言えるようになるのでは、と考えたりしています。でも現実はそう甘くないことを思い知らされたりしているのも事実です。同じような形態をした動物なら同じように発生していくのかと思えばそうではなく、節足動物の体節が作られる時の仕組みも、クモとハエで違いますし、同じ昆虫であるハエとバッタでさえ異なっています。でも、出来上がってきた体節は非常に良く似ています。体節が作れさえすれば、どんな方法で作ったっていいんだよ、結果が良ければ方法なんてどうでもいいよ、と言っているようです。どの仕組みが大昔の節足動物で行われていたものをどの程度反映しているのか、DNAの抽出方法のようにオリジナル・プロトコールがどこかに残っていればよいのですが、もちろんそんなわけにはいきません。現存する生き物の中で起こっている仕組みから、大昔のことを理解するのには困難があります。クモの卵を解析しながらも、爆発的なブレークスルーになるような方法論はないのか、模索しています。



[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 研究員 秋山-小田 康子]

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