ちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【高槻と雅楽】

2012年8月15日

中村桂子

先々回、京都の蒔絵工芸作家の足立康庸さんが蒔絵を支える道具などが消えつつあると話して下さったと書きました。

またまた日本の伝統、ユネスコの無形文化遺産である雅楽の楽器、ひちりきの吹き口(ぜつ)に不可欠な天然のヨシが危機にひんしているという話です。実は、そのヨシの唯一の産地が高槻の「鵜殿のヨシ原」なのだそうです。20年近く高槻で仕事をしながら知りませんでした。身近で知らないことの多さに呆れます。その貴重なヨシ原の真上に新名神高速道路が建設されることになり、環境の変化でヨシが消えそうだというのです。害虫を駆除し、良質のヨシを得るにはヨシ焼きが必要なのですが、高速道路が通ればそれもできなくなるだろうと心配されています。

篳篥奏者として、伝統的な雅楽だけでなく新しい音楽にも挑戦している東儀秀樹さんが「茎の太さ、肉の厚み、繊維の密度がよく、削り出した時にピンポイントで理想的な音を出してくれる」と語っています。管楽器の吹き口は本当に微妙なのですね。オーボエ奏者(今は指揮者ですが)の宮本文昭さんが、演奏会が終わるとコンビニのお弁当を買ってホテルへ帰り、一人寂しく翌日のためのリードを削ると話していらしたのを思い出しました。

新名神高速は、凍結されていたのになぜか復活してきたもので、その経緯はよくわかりませんが、千年以上続いてきた文化を支えてきたヨシ原への影響は考えていなかったようなのです。ここのヨシでも数千本から数個しか作れないという微妙なものであり、他に求めることはできない貴重なものだというのですから、壊してしまったら取り返しがつかないでしょう。

実は、季刊生命誌で先回対談をお願いした隈研吾さん(まだの方はホームページでお読み下さい)が「取り返しがつく世界」というエッセイを書いていらしたので、今回それを取り上げようと思っていたところでした。たまたまヨシ原の話が出てきましたので、緊急にこれをとり上げ、隈さんのお話はこの続きとして次回にします。

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