中村桂子のちょっと一言
中村桂子のちょっと一言
館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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2007.5.15 

【格さんの残してくれたものを次の世代へ】
 
中村桂子館長
 3月23日に渡辺格先生が亡くなられました。90歳でした。分子生物学−最近ではDNAの研究と言った方が通りがよいかもしれませんが−の勉強をしようと思って先生の研究室に入れていただいたのが半世紀前。分子生物学者と呼ばれる人は指で数えられるほどという時代でした。いつも今何が大事かということを考え続けている魅力的な方で、後をついていくのが楽しみでした。日本で最初にDNA研究の大切さに気づき、分子生物学の祖と言われるデルブリュックに手紙を出して、アメリカで勉強し、研究の素を日本に持ち帰られたまさにパイオニアです。最近は以前にも増してあれこれ考えを巡らし、話し好きになっていらしたので、暖かくなったら伺うお約束をしていたのに、お相撲のテレビを楽しんでいらして亡くなったとのこと。まだまだ教えていたゞきたいことがたくさんあったのにと口惜まれます。でもまったく弱っていらっしゃらなかったので、相変わらずどこかでまくしたてているんだろうなという気もしています。
 そう思っていたら「柚木の会」から集まりに来ませんかと連絡がありました。柚木というのは東京都八王子市の地名。「大学セミナーハウス」の所在地です。「柚木の会」はそこで渡辺格先生のセミナーに参加した学生さんの集まり。林の中に散在する宿泊施設とセミナー室があり、泊まり込みでの勉強会をする場所ですが、バス・トイレ付などという洒落たものではありませんでしたから今はどうなっているのでしょう。学生たちが一流の先生と接して勉強し、泊まり込んで話し合う楽しい場所でした。1960年代荒れる大学を見て、本当に勉強する場所を作りたいと考えられた飯田宗一郎さん(ICUの職員)の熱意で生れたもので、全力投球で運営していらしたのを思い出します。飯田さんももういらっしゃらない。飯田さんにもいろいろ教えていたゞきました。ああいう志の塊みたいな方が少なくなったなあと思います。
 今から29年前、そこで行われた渡辺格先生のセミナーに、私は助手役で参加したのでした。その時の学生さんたちが久しぶりに会うことになり、お誘いがかかったのです。格さん(実は学生の頃からこう呼ぶようにと言われてきたので、この方が慣れているのです)が亡くなって寂しくなっている時に声がかかったというのも、ちょっとふしぎで、もちろん喜んで参加しました(かなり以前からの計画で、この時期になったのは偶然です)。総勢23名のうち15名が参加。3時から6時まで、それぞれの仕事の話をし、6時から8時まで食事をしようという計画だったのに、食事の間も発表が続き、とうとう11時まで話し通しでした。合計8時間。アルツハイマーあり、人工知能あり、漢方薬もあれば、お料理もあり・・・もちろん私も生命誌の話をしました。止まるところを知らず、11時にお店が看板になり渋々解散となったのでした。
 格さんと私の差がちょうど20歳、私と皆の差もほぼ20歳強。まさに三世代です。こうして続いていくんだなあと実感しました。格さんがゼロから作って下さったものが何かの形で若い人につながっていく。その一つの輪になれたのはうれしいことです。昨日、早速メールが届き、メールでの話し合いを続けようとのこと。盛り上がったままのようです。私も仲間に入れてもらって若い人たち(若いったってもう50近くですけれど)から教えてもらえるのが楽しみです。今私が関心を持っている言葉について研究している人もいますし。こんな時格さんだったらどうするのかなと思いながら、少しでも次の世代に渡せるものを自分でも作っていきたいと思っています。次の集まりへの誘いを待ちながら。

P.Sでいのち愛づる姫からのメッセージを
 先回からお知らせをつけていますが、6月1日(金)の夕方に東京虎の門のJTアートホールで「いのち愛づる姫−ものみな一つの細胞から」をいたします。これは、研究館の10周年記念に朗読ミュージカルとして山崎陽子さんにお願いしたものですが、これを観て大いに気に入った藤原良雄さん(藤原書店)が本にして下さったので、その出版記念です。
 公演の時も堀文子さんの絵がすばらしかったと皆さんにおっしゃっていただきましたが、本にはもっとたっぷり絵が入っています。ごらん下さい。そして6月1日夕方是非見にいらして下さい。本屋さんのポップアップ用に堀さんがお書きになった文を引用します。「山頂を目指し別々の山道を登って来た三人の旅人が思いもかけず山小屋で落ち合ったような此の度の不思議な御縁が嬉しくてなりません」。私もまったく同じ気持です。


 【中村桂子】


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