生命誌について
2022.11.01
「一定期間の低温」について
ナミ
自室で蛹になったナミアゲハが1か月経過しても羽化せず「越冬蛹」になったようです。「越冬蛹」どう環境を整えればいいのか分からず、本やネットで必死に探し回るうちに尾崎克久先生の文章を発見しました。「休眠」の専門家の方に出会えたことがとても嬉しく、感謝の思いでいっぱいです。調べれば調べるほど「越冬」と「休眠」の関係が分からなくなりました。何処にも載っておらず、どうしても知りたくて質問させていただきます。「一定期間の低温」というのは、具体的にどのくらいの期間(日数)、どのくらいの温度なのでしょうか?現在、室温20〜22度くらいの部屋で昼夜の時間にだいたい合わせ、光が当たるようにしています。ベランダに日陰の準備ができ次第、移します。
2022.11.01
1. 尾崎克久(昆虫食性進化研究室)
ラボ日記の記事を読んでくださったとのこと、大変ありがたく思います。
温帯地域に生息する昆虫の大多数が休眠という仕組みを持っていて、発育に適さない冬を乗り切る方法として使っています。
休眠を消去するための一定期間の低温とは、基本的には「4℃以下の寒さを30日以上経験すること」となります。このため、人が生活している屋内では、充分な寒さを経験できないのでいつまでも羽化しないということになってしまいます。
ただし、休眠の「深さ」は地域によって異なります。赤道から離れて寒い地域になるほど浅く、暖かい地域では深くなります。ナミアゲハの場合、青森や北海道のものは4℃30日であっけなく休眠が消去しますが、大阪のものは4℃90〜120日くらい必要になると感じています。ちなみに、休眠消去に明暗の変化は不要です。
寒さの与え方は、冷蔵庫に入れておいても良いのですが、なんとなくの個人的な印象としては、日光が当たらない屋外に置くのがよいと感じています。ご自宅の北側に置き場所を見つけると良いのではないかと思います。
ちなみに、昆虫の休眠に関する研究は歴史が古いため、ネットでは詳しくは見つからないかもしれません。絶版になっておりますが、古本で下記の書籍を見つけられると楽しめると思います。
中公新書
「昆虫の生活史と進化」 正木進三 著
「アメリカシロヒトリ」 伊藤義昭 編
「昆虫の生活史と進化」は、僕の世代の昆虫学者にとっては伝説とされる名著です。アゲハチョウなど、チョウやガの仲間については「アメリカシロヒトリ」の方が共通点が多く、参考になる点が多いかと思います。「アメリカシロヒトリ」の休眠に関する章は、正木進三先生が担当されています。
2022.11.04
2. ナミ
速やかなご返答、ありがとうございます。
「休眠」という仕組みに対して、逆の考え方をしていました。「屋内で温かいと羽化してしまう」「休眠に関する研究があまり無いのでネットで見つからない」など。
温度が4℃というのも驚きでした。西向きベランダで遮光してと構想していたので… 家族同居にて冷蔵庫での冬越えは困難にて、自宅で北側というと廊下物置の中という選択肢しかありません。さっそく再考いたします。
書籍の紹介までしていただき、お心配りに感激です。検索したところ、2冊とも図書館でリクエストできました。先生のご紹介される名著、読むのが楽しみです。
なんと申しますか…昆虫ってすごいですね。
知識が増える都度、畏敬の念に打たれます。
ナミアゲハの蛹がさらに愛おしく思え、無事に越冬してほしい。
心から祈りつつ。
尾崎先生、このたびはご返答、
本当にありがとうございました!