研究
2022.03.09
「もんげーバナナ」について
藻岩のエゾリス
岡山県の田中節三さんが「凍結解凍覚醒法」という技術開発により、バナナを岡山の気候でも露地栽培ができるように改良したそうですが、これは遺伝学、発生学上、大変興味のある事柄のように思います。もし『生命館』での見解等があればぜひお聞かせください。
2022.03.09
1. 齊藤わか(表現を通して生きものを考えるセクター)
通常は熱帯で育てるバナナを、凍ってしまうほどの低温にさらすことで、温帯である本州・岡山でもよく成長するようになったそうですね。
以前、季刊「生命誌」の取材で線虫の研究者にお話を伺った際、幼虫の時期に一時的な環境ストレスを経験した線虫は、ある種の遺伝子がストレスに反応してはたらき始め、そのストレスへの耐性を生涯にわたってもちつづけると教えていただきました。線虫なのでバナナと異なるメカニズムだとは思いますが、厳しい環境に耐える生きものの強さを思いました。
技術を駆使してバナナそのものを改変するのではなく、「先祖は氷河期を乗り越えてきたはず」という発想から辿り着かれた点はユニークだと感じます。教えてくださりありがとうございました!
2022.03.10
2. 藻岩のエゾリス
「もんげーバナナ」が「遺伝学、発生学上大変興味のある事柄」と書いたのは、生物の本質的な理解と深くかかわるからです。中村桂子先生の「ちょっと一言」(2018.12.17)で、「ゲノムは設計図でもレシピでもない。生きものはつくるものではなく独特の生れ方をするもの」であると述べています。これは本当に大切は捉え方だと思います。生物の本質は、オパーリン流にいうならば、生物は外界と区別された閉じられた空間であり、その境界によって「内」と「外」の関係を新たに創り出した存在である。しかもその閉じられた空間は閉鎖系ではなく開放系であって、外界との絶えざる相互作用(新陳代謝)により増殖(生長と繁殖)する。
生物は第3者が外から設計図やレシピを開いて作るものではない。しかしゲノムといえども単独で活動できるわけではないし、外界(環境)との相互作用なしには生物は発生も生長も繁殖もできない。
発生において、生物は進化の過程で様々な環境の変化を乗り越えてきたことを考えると、外界の刺激(環境)に応じて発現するゲノムは数多くの選択肢を備えていると思われる。そのメカニズムの解明や選択肢の形成はどのようにできたのか、などの手掛かりにこのバナナの事例はなるのではないか、と思ったわけです。それが中村先生の言う「独特の生まれ方」の内容となると思うのです。