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みんなの広場

研究

2020.08.26

「カエルとイモリのかたち作りを探る」の感想

SK

砂時計モデルが興味深いですね。卵割などの発生初期の経過や、発生が完了した形はいろいろあるけれど、途中の咽頭胚期は共通しているという話は不思議です。

初期の多様性に関しては、各種の器官(の原型)を脊椎に沿って配置する(発生させる)ことに比べれば、卵割などは比較的単純で、そのプロセスに自由度がある。ということでしょうか。

発生の完成後の多様性については、おそらく最初に誕生した脊椎動物の咽頭胚期がそれだけのポテンシャルを持っていたというのもすごいですね。厳密には種によって異なるのでしょうけれど、やはりそこに共通したものがある。ここにも、違うけど同じ、同じだけど違う、ですね。

他の映像も拝見しました。どの映像も分かりやすく解説されていて、教材として良く考えられているなと思いました。

※8月の生命誌の催し「研究者の目で生きものを見てみよう 」にお寄せいただいたご質問、ご感想です。

2020.08.26

1. 橋本主税(形態形成研究室)

進化を考える際に「淘汰圧」という考え方が重要です。調べてみるとこの「淘汰」にあたる英語は”selection”であり、今では教科書でもそのまま訳して「選択」と書かれているようですが、ここで「淘汰」という訳語を与えた日本人の感覚に敬意を評したい気持ちでいます。形作りに限定して考えれば、「良い変異」が選ばれるのではなく「悪い変異」が淘汰される方が圧倒的に多く、結果として多様な生き物たちが現存していると思えるからです。

遺伝情報は一義的にはDNA配列にあります。突然変異とはこのDNA配列に変異が入ることに起因します。この意味で遺伝子の変異は公平中立に生じることとなります。ACGTの四文字からなるDNA配列は複製の時に一定確率で誤りが起こり、たとえばAがGに変わったりCがTに変わったりすることでDNAの配列の意味が変わってきますが、このDNA配列に導入される変異は場所を選ばず確率論的に中立であるということです。

大元のDNA配列に導入される変異は中立ですから、淘汰圧がゲノムにかかるということはあり得ません。では進化の過程における淘汰の圧力は何にかかるのでしょうか?

現存する生き物は長い年月を経た進化の過程を生き残ってきたものたちです。進化の過程でさまざまな変異を受け入れ、結果として形態の多様性が生じます。多様な形を持った生き物ですが、形態によって似た者同士が同じ分類群を作ります。単なる他人の空似ではなく系統(進化)的に近縁な仲間が同じ分類群に入ります。繰り返しになりますが、その分類群に特徴的な形が存在するわけです。私はこの集団に「特徴的な普遍的形態」にこそ淘汰圧がかかっているのではないかと考えています(「形」に淘汰圧はかけられませんから、その形を作る過程に淘汰圧がかかっているということになります)。

変異は中立的に起こります。だから形作りの過程で「この形を作りやすい」とかいう偏向が入る余地はありません。極論すれば、ゲノムのあらゆる場所に変異が入りうるのですから、長い年月をかければどんな形でも作ることができそうです。しかし、ある分類群に特徴的な形があります。脊椎動物で言えば「咽頭胚」がそれにあたるのかもしれません。変わりうる可能性があったにも関わらず変化せずに共通性として残ったとすれば、その形は変えることが許されなかった、その形を変えるような変異は全て存在できなかったということになるのではないでしょうか。逆に、わりと多様な形態をとりうる場合には、その形作りの過程に多様な変異を受け入れる寛容性があったと考えるわけです。言い換えれば、普遍性・共通性が見られる形質には淘汰圧が強くかかっており、多様な形質には淘汰圧があまりかかってこなかったと言えるかもしれません。

砂時計の横軸は多様性です。横軸が長いほど変異を受け入れてきたという事実になります。したがって、淘汰圧はそれほど強くはかからなかったのでしょう。対して咽頭胚のようなボトルネックの部分は小さな変異をも受け入れることを拒絶してきた(受け入れたものは存在できなかった)ということでしょう。たとえ形作りのほとんどの部分に変異が入らなかったとしても、咽頭杯を形作る過程がうまくいかず結果として咽頭胚になれなかったような変異を持つ生き物は脊椎動物として残ってこられなかったことに重大な意味が隠れているのかもしれません。普遍性と多様性をこういう見方で考えてみたら面白いのではないでしょうか。

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