展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【生命誌すごろく〜紆余曲折を経て】
2012年12月3日
テーマ「遊ぶ」で生命誌を考えた一年分を『遊ぶ』という一冊の本にしました。その付録に「生命誌すごろく」を作りました。12月初旬より書店に配架されます。今回は付録を含む本作りのご報告です。
生命誌年刊号は、『めぐる』の年から装丁家の上野かおるさん、尾崎閑也さんに魅力的な本に仕上げていただいています。先日、上野さんは、ご自身が手がけた一冊を紹介する装丁の展覧会に、生命誌の『編む』を選んで出展してくださいました。その様子はこちら(朝日新聞記事)でご覧ください。
本の出版をお願いしている新曜社さんの新刊案内で、装丁家桂川潤さんの『本は物である』という本が目にとまりました。そのまえがきで、一般読者にはなかなかイメージがつかない装丁という仕事の魅力を、著者がユーモアを交えながら語っています。そこには、装丁とは、「テクストを三次元の「物」として立ち上げていくプロセス」であり、商品デザインとは異なり「テクストを読み込む感受性と緊張感=(共感と批評)」が要求されるとあります。
生命誌の本づくりでも、私たちが編んだテクストのエッセンスを掴んで、本という構造を総合的に、緻密に、物質としていく装丁家さんの経験知は実に見事で、徐々に形になっていくその過程はわくわくします。
今回は、テーマ「遊ぶ」に因み、導入部や扉でイラストをふんだんに取り入れました。とぼけた感じが魅力の作画は出口敦史さんで、一見ラフですが、「DNA二重らせんは大きい溝小さい溝を交互にくり返し、一回転で梯子は10段、その梯子として向き合う塩基A=T,G=Cの並び順に遺伝情報がある」ということなどお伝えした上で、面白がって描いて下さいました。カバーも尾崎さんのこだわりで、楽しい「遊」となり、隅々まで魂が吹き込まれています。
そして、生命誌を「遊ぶ」すごろくです。多くのすごろくは、紙の右下角がふりだしで、ぐるぐる周りながら中心のあがりへ向かう形で、それは皆が車座になって遊ぶ姿を想像すれば納得いきます。生命誌すごろくも最初はそれを思ったのですが、違う形になりました。このすごろくのふりだしは、もちろん38億年前の生命誕生、あがりは現在の地球生態系であって、ヒトではありません。ちょうど賽の目の数と同じ生物6界としました。その道のりを考える条件を、1)本文の全16記事への言及。2)生命誌の5つのエポック(生命誕生、真核誕生、多細胞化、上陸、ヒト誕生)。加えて、3)最近の地球史の知見。4)化石、地質年代による生物史。5)現生生物から探る進化の知見。と決めて、具体的な出来事を調べ、すごろくという制約の中で改めて整理したところ物語りが浮かび上がりました。レイアウト上も、進化史的にも、大きな曲がり角に、スノーボール・アースのような大イベントが来るなど、文字通り紆余曲折に満ちた38億年の道のりです。6界を代表する生物出現のコマに止まった人は、賽を振り、出た目の数によって途中であがりになるという遊びのルールも物語りとデザインと同時に、自ずと決まりました。生命誌すごろくは、僧侶でイラストレーターの中川学さんが素晴らしいものに仕上げてくださいました。楽しく味わい深い表現です。
このすごろく作りも、いろいろ調べている途中段階では、いったいどういう形になるのか、やってる本人もよくわかりませんでした。しかし、やはりものづくりは経験知なので、わかってから動くのでなく、最初に決めた大まかな構想のもと、わからない部分を抱えながら手を動かし(試行錯誤)、進めていく中から自ずと答が現れてくる。その瞬間がとても面白いのです。
生命誌年刊号『遊ぶ』