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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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役に立つ

2014年11月17日

テレビで漆器づくりの現場を紹介していました。何度も何度も塗りと削りを重ねてでき上がり。でもこれが完成ではないと、でき立てのお椀を3年使ったものと並べて見せてくれました。つやがまったく違います。使って、拭いてをくり返しているうちにしっとりしたつやが出てくるのですね。

このような日用品として生れてきた工芸が大好きです。毎年、日本伝統工芸展に出品される作品は、徹底的に技を伝承しながら、作者の個性を出した美しいものになっているところがなんとも魅力的で引き込まれます。もちろん技にも新らしさを加えています。全体の技のあり方は受け継ぎながら独自のものを出していくところがとても生きものっぽくてそれも好きです。陶器、漆、木や竹の細工、金工、染織など実用品であるところが魅力の基本です。

役に立つ。飾って眺める美術品と違って、使えなければ意味がありません。役に立つという面があるための美しさです。漆器づくりを見ながら最近科学のまわりで「役に立つ」という言葉が品なく使われていて可哀想な気がしてきました。「役に立つ」の品をとり戻したいと思います。

今開かれている正倉院展の御物も皆使われていたものですよね。昔は高貴な方のものでしかなかったわけですが、今は私たちも、心がければ美しいものに出会えます。高額のものでなくても、身の丈に合った形で、役に立つと美しさを重ね合わせられるようにしたいものです。もちろん科学の世界でも。

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