館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【動物の謝肉祭は本来生命誌版】
2008.9.16
この催しは小さな子どもにも生の音楽に触れる機会を作ろう、小さいお子さんがいる親御さんが音楽会に出かける機会を作ろうという二つの意図が重なって行われているものです。そこに欲張って科学まで入れこもうというのですから難しい。そこで選んだのがサンサーンスの「動物の謝肉祭」です。これは実は今年の二月、新国立劇場で「ピーターと狼」と一緒にやって、友人たちからは楽しかったと言ってもらえたものです。でも今度は「3歳以上はどうぞ」という会なので、ちょっと考え込みました。でも、研究館の基本姿勢は、相手に合わせるのでなく、自分が面白い、大切だと思うことに人を巻き込むことですから、今回もそれで行こうと思い、「動物の謝肉祭」にしました。 ライオン、メンドリとオンドリ、ラバ、カメ、象、カンガルー、水族館、耳の長い登場人物、カッコウ、小鳥、ピアニスト、化石、白鳥。例えば、水族館の魚たちのところでは、38億年前に初めて生命体が誕生したのは海、以来30億年以上の間生きものは水の中にしかいなかった。陸へ上った生きものも、もちろん水がなくては生きていけない。水こそ生きものを支える基本物質であり、海は私たち生きものの故郷だという話をしていくのですが、問題は全体をどうまとめるかです。ところが、幸いなことに、魚、カメと恐竜(化石)、白鳥などの鳥たち、ライオンや象や人間と並べてみたら、魚類、爬虫類、鳥類、哺乳類と脊椎動物が勢揃いしているではありませんか。ここに両生類が加わると万全なのですが、残念ながらカエルはサンサーンスの眼にとまらなかったようです。こうして「動物の謝肉祭」はそのまま「生命誌」であることがわかりました。もちろん我田引水です。あちこちに有名な曲のパロディがあったり、当時の音楽界を皮肉っていたりするので、生前は本格的演奏の対象にはならなかったと言われていますが、生命誌として聴くとどれも楽しいしよくできていますね。ありがたい曲があったものです。生きものたち、人間活動から刺激を受けての表現という意味では同じなのかもしれません。「ピーターと狼 生命誌版」、「動物の謝肉祭 生命誌版」とくると、三大子どものための音楽の一つ、ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」が頭に浮かびますが・・・。これはちょっと無理だろうなと思っています。
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