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研究館より

ラボ日記

2024.10.01

FISHの技術革新

「遺伝子が働く」場合,まずはじめにゲノム上の当該遺伝子領域の配列情報がmRNAに転写されます。そのため,研究者が研究対象の遺伝子の働き場所を突き止めたい時は,mRNAが体内のどこに存在しているのかを調べることが定石です。細胞レベルの細かい位置を調べたいときに役に立つのがFISH法です。非常に大雑把に言うと,「mRNAの居場所を可視化する」やり方で,半世紀以上の歴史と伝統を有します。そんなFISH法ですが,マウスやゼブラフィッシュのような脊椎動物業界ではここ数年で大きな革新を遂げており,これまで可視化できなかったような少量しか存在しないmRNAの高感度検出を実現しているようです。

9月中旬に長崎で開催された日本動物学会大会にて,これらを学ぶ機会がありました。HCR ISH,SABER FISH,clampFISH等々,それぞれ断片的にしか知らなかった手法についてまとめて知識を得ることができ,大変有意義でした。それとともに,昆虫でどれくらい活用可能かはまだわからない,という印象を受けたことも事実です。新しい手法の常として費用がかかるのは言うまでもありません。それに加えて,昆虫特有の「トラキア問題」(と勝手に私が呼んでいる)が立ちはだかりそうなのです。

私たちヒトを含めた脊椎動物では,酸素は肺に取り込まれた後に赤血球に渡され,血液循環によって全身へと供給されます。一方,昆虫の場合,酸素は血液経由ではなく直接全身へ運ばれます。酸素運搬用に全身に張り巡らされたパイプラインがトラキア(trachea: 気管)です。頭のてっぺんから足の先まで組織の間に薄いビニール製の細い管が入り込んでいるようなイメージです。そして,このトラキアが昆虫におけるFISH法の邪魔をします。本来はmRNAに結合して可視化を実現するためのプローブと呼ばれる核酸が,トラキアにベタベタと張り付いてしまい,下手するとトラキアばっかり可視化されるというオチに…そして,上で述べた最新のFISH法たちは,いずれも複数のプローブを多段階投入することで検出感度の向上を実現しています。うーん,上手くいかない予感しかしません。とは言いつつも,試してみようと思い詳しく勉強しているところです。さて,どうなることやら。

宇賀神 篤 (研究員)

所属: 昆虫食性進化研究室

現在はアゲハチョウの脳の研究を進めています。これまでの研究はリサーチマップを参照。