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研究館より

ラボ日記

2024.07.17

なんのモデルなのか?

先月、京都で開催された発生生物学会に参加しました。いろいろと立て込んでいましたのでフルの参加とはなりませんでしたが、研究発表や知り合いの研究者との会話から刺激を受け、また5月まで小田ラボに所属していた藤原さんが蜘蛛柄のシャツを着て発表する姿を見届けることができ、有意義に過ごしました。今回の学会のメイン(?)イベントは、幹細胞の研究者と発生の研究者のガチ討論でした。(私は聞いていただけですが。)なかなか踏み込んだことを言うのも難しいのであろうし、何か結論が出た訳ではありませんが、役に立つとかそんなことよりも、とにかく面白いサイエンスをしようや、という感じで終了しました。これは誰もが賛成することだと思います。

私自身はいわゆる今の時代の幹細胞などは扱っていませんが、両者は大きく異なるように感じています。発生の研究では培養細胞を使うにしても、生体内での分子の機能や相互作用を比較的シンプルに証明できるのではないかと考えて実験を行うことが多いです。一方、幹細胞の研究者はかなり工学的な考え方をしているように感じます。個体内で起こっていることを必ずしも反映せずとも、期待する細胞や組織への分化を引き起こす方法を見出そうとする研究が多いように思います。同じようでも、目的も、研究の角度も違うのかな、と。これは何が知りたいのかの違いでもあり、面白いと思う方向性で進んだら良いのだろうと思います。

ただ、幹細胞が使える時代となり強く感じるのは、私たちはヒトが知りたかったのか?ということです。これは、今回の学会だけでなく、海外の学会に参加するとさらに強く感じます。これまで発生生物学の研究は実験のしやすい生物で行われてきました。モデル生物というやつです。モデル生物では研究のツールが揃っているので詳細な解析を行うことができ、生命現象の解明に大きな役割を果たしてきました。しかし幹細胞を使った研究が可能となった現在、もしかしたら既にマウスやヒトの方が実験のしやすい生物になっているかも知れません。モデル生物をヒトや他の哺乳類などの複雑な、解析の難しい、生物の代わりとすることが目的であったならば、ヒトを研究することこそがするべきことになってしまう。もちろんそれを第一と考える研究者がいるのは時代の流れとしても当たり前なのだろうと、それは分かるのですが、もしそれが発生生物学全体に広がっていくのであれば、それで良いのだろうかと思います。やはり研究の多様性はその分野の発展にも重要だと考えますし、様々な動物の細胞が作り上げるパターンや構造や、その細胞たちの能力やその違いに、面白いことはまだまだたくさん潜んでいると思います。

動物の初期発生に興味を持ち、オオヒメグモを用いて研究しています。