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研究館より

ラボ日記

2022.10.18

クモの胚発生を模倣できる数理モデルの論文が出ました

細胞・発生・進化研究室のWebページでご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、2ヶ月前の8月にクモの胚発生を模倣できる数理モデルの論文を出させていただきました。発表論文はオープンアクセスなので、どなたでもWeb上でご覧いただけます。本論文は英語ですが、細胞・発生・進化研究室のWebページにおいて日本語で少し解説していますのでご覧いただけたら嬉しいです。

折角なので、ラボ日記でもこの発表論文の研究について話します。論文のメインの結果である「クモの胚発生の模倣を可能とする数理モデルの構築」は、私がこのJT生命誌研究館に所属してから着手したものです。用いている数理モデルはCell vertex model(細胞頂点モデル)というもので、細胞を多角形で表現しそれを多数敷き詰めることでクモ胚などの多細胞組織を表現します。数理モデルと聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、この数理モデルで使われている数式は、大学の一般教養で勉強する運動方程式や微分方程式であり、そこまで難しい数式ではありません。ですから、数理モデルと聞いて難しそうだなとは思わずに、のぞいてみると意外と簡単な数式で表したものだったりします。

近年では、生物実験にも数理を用いた研究いわゆるドライ研究が取り込まれ、この傾向は機械学習やコンピュータ技術の発展によりますます高まると思われます。生命現象を数理モデルで再現する利点の1つは、その主となるメカニズムを予測できることだと思います。ただ、コンピュータの技術的に可能だからといってあまり複雑すぎる数理モデルは、かえって予測が難しくなりあまり良くないと考えています。一方で、単純すぎて生命現象の本質となる要素を捕らえられていないのも良くありません。この良いぐらいのバランスを想定して、生命現象を再現する数理モデルを作る必要があり、このバランスを取ることが数理研究をしていく上で重要であり工夫のしどころです。

今後になりますが、細胞・発生・進化研究室のWebページ内で数理モデルに関連したページを公開する予定ですので、ご覧いただけたら幸いです。
 

藤原基洋 (奨励研究員)

所属: 細胞・発生・進化研究室

生物の形作りにおける物理背景、特に力学に興味があります。力学を基にした数理モデルを構築し、コンピュータ上でクモ胚の形態形成を再現することで、生物の形作りのルールを見つける研究を行っています。