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研究館より

ラボ日記

2022.09.01

久しぶりの本格的オサムシ採集

先月、日本進化学会の第24回年大会(沼津)に参加し、節足動物の系統進化の研究成果を発表しました。オンサイトの学会参加と発表は3年ぶりで、多くの方と対面して話をするのは新鮮な感じがしました。
 

学会の後、少し足を伸ばして千葉県の柏市と我孫子市一帯でのオサムシ採集に行ってきました。本格的なオサムシ採集は恐らく20年ぶりだったではないでしょうか。私たちの研究課題の一つとして、現在オサムシの後翅退化の分子機構とその進化に関する研究を行っています。退化後翅の状態からいくつか代表的なオサムシ種を材料に用いているが、そのうちの一種であるアカガネオサムシCarabus granulatusは、後翅の退化程度が異なる二つのタイプが種内に存在しているため、格好な材料です。その二つのタイプの後翅を図1に示しています。外見的に見ると、一方は翅長も幅も小さくなっているが(図1b)、もう一方は飛翔できるカタビロオサムシの後翅(Imura et al., 2018)と比べても遜色がないほど大きいものです(図1a)。また、二つのタイプのアカガネオサムシはどうやらそれぞれ北海道と本州に分かれて分布しているようで、ここでは北海道タイプと本州タイプとします。

図1. アカガネオサムシの後翅の2タイプ(Imura et al., 2018)

今回は本州タイプのアカガネオサムシを狙って千葉県の利根川沿いで採集を計画しました。採集場所はこれまでの採集記録データに基づいて決めたのだが、実際に現場に行ってみると、利根川沿いにはゴルフ場だらけで、オサムシが生息できそうな場所を探すのは相当難しいと直感的に思いました。アカガネオサムシの採集記録は20年以上も前のデータだったので、現在の利根川沿いの環境は以前と大きく変わっている可能性があります。とりあえず、車を走らせて我孫子市、柏市、野田市にわたる利根川沿いを観察しながら、なんとか環境的に良さそうな数箇所に合計200個のトラップを仕掛けることができました(図2)。翌日と翌々日は、トラップに落ちた虫を拾った後、オサムシを誘引するものとして、スシノコまたはさなぎ粉を追加し、三日目はトラップを回収しました。

図2. トラップを仕掛けた場所の環境(上段)と採集されたオサムシ(下段左:マイマイカブリ;下段右:アオオサムシ)


では、収穫は?というと、マイマイカブリとアオオサムシがそれぞれ4頭得られたが、残念ながら目的のアカガネオサムシはトラップに落ちていませんでした(図2)。ほかにゴミムシ類、センチコガネとハサミムシなどもトラップに入ったが、最も多くトラップに掛かったのはシデムシでした。1個のトラップに30匹以上も入ってトラップの3分の1から半分まで埋まっていたものもありました。シデムシは主に動物の死体を餌とする有名な甲虫で、ゴミにもよく集まるので、今回トラップを仕掛けた場所は公園に近いことを考えると、腑に落ちるような気もします。アカガネオサムシが捕れなかった理由としては、多分二つの可能性が考えられます。一つは川沿いの環境が変わり、そこにはすでにアカガネオサムシが生息していないこと、もう一つは、文献によれば今回の採集時期が遅すぎたかもしれません。次回は採集場所と時期を再検討したうえ臨みたいと思います。

蘇 智慧 (室長(〜2024/03))

所属: 系統進化研究室

カイコの休眠機構の研究で学位を取得しましたが、オサムシの魅力に惹かれ、進化の道へと進みました。1994年から現在に至るまで、ずっとJT生命誌研究館で研究生活を送ってきました。オサムシの系統と進化の研究から出発し、昆虫類をはじめとする節足動物の系統進化、イチジク属植物を始めとする生物の相互作用と種分化機構の研究を行っています。