爬虫類は私たち哺乳類と同じ、胎児をつつむ羊膜をもち陸上で子供を育てる仲間です。爬虫類のなかでもトカゲの仲間は、約7千種と陸上動物の中では最も種類が多い頼もしい隣人です。しかし、変温動物で冬は苦手なのか日本の在来種はわずかに約30種。身近なようで、なかなかお目にかかれないトカゲのなかまに紙工作で迫ります。
ニホンヤモリ(Gekko japonicus)は、家屋の周辺を好み、最も身近に見られる爬虫類の1つです。江戸時代にオランダから来日した医師フォン・シーボルトが長崎から持ち帰った標本をもとに命名され、名前にニホンとありますが、中国、韓国をはじめ東アジアに広く分布しています。遺伝子の比較研究から、約1万年前の氷河期の終わりに大陸と日本の間を人間と共に移動して以来、今も行き来しているそうです。
ニホンヤモリ
ヤモリは壁や天井を自由に歩きますが、足先に吸盤がありません。代わりに足の裏のウロコの上には細かい毛がびっしりと生えています。毛は枝分かれし先端は200ナノメートルのヘラ状をした硬いケラチンのタンパクで、接着面にピタリとはまり込むとファンデルワールス力で体の40倍の重さを支える力になります。そんな力では動くのが大変に思われますが、歩くヤモリを見ると指先から裏返して足を進めています。逆向きにすると簡単にはがれるしかけなのです。
夜行性のニホンヤモリは、私たちが明るいところで色を見ている錐体細胞のセンサータンパクを暗いところではたらく桿体細胞で使い、夜でも色を見分けます。さらに、匂い分子を受け取るタンパク質の遺伝子が250あり、昼行性のトカゲの3倍と鋭い嗅覚をもちます。
夏の夜、灯火に集まる虫を狙うはかない影が目に浮かびますが、独自の能力を備え、海を超える、したたかなニホンヤモリの歩みを机の上でたどりましょう。
参考文献:Integr. Comp. Biol. 59(1), 101-116 (2019)
Nat Commun. 6, 10033 (2015)
Sci Adv. 40, eabj1316 (2021)