今号テーマ
編みあげ、またほどく。
子どもの頃、編みものが好きでした。母がセーターを編んだ残り糸を貰って靴下を編むのです。今思うと、一次元の糸が三次元の形を作っていくのが楽しかったのだろうなと思います。対談のお相手津田さんのカオスの数学というとんでもなく難しいテーマも、きっと編み上げられたものなので、編みものをほどくつもりで解きほぐせないかと思っています。カオスの基本テーマである「時間」は生命誌には不可欠ですから。
リサーチは、人気者の粘菌です。飢餓になるとアメーバが集まってキノコのような形になる姿はおなじみですが、この自己組織化がどのように起きるかを解いた研究、面白いです。もう一つは、研究館の人気者のオオヒメグモです。節足動物のモデル、ショウジョウバエとは違う前後軸、背腹軸の作り方が見えてきて、体の軸形成の進化を探る鍵になりそうで、これからが楽しみです。
サイエンティスト・ライブラリーは、脳研究で学士院賞を受賞なさったばかりの御子柴先生。研究はもちろん、絵画から中国の骨董まで、知的興味が溢れ出てきて話が止まらないのです。研究成果だけでなく、人間を伝えることの大切さを改めて感じました。分子から病気まで、脳という切り口であらゆる方向へ展開しています。(中村桂子)
TALK
カオスで探る生きものらしさ
CARD
編む
愛づる、語る、観る、関わる、生る、続く、めぐる…と続いた動詞、今年は「編む」です。細胞をつくるDNAやタンパク質などの分子、個体をつくるさまざまな細胞、生態系の中の多種多様な生きものたち。個々についてのデータは溢れんばかりですが、これらがお互いに関わり合い、編み上げられていくプロセスが解けなければ「生きもの」は見えてきません。分子から生態系までさまざまな階層の研究から編み出される生きものの姿を見つめます。それを基本に世界を編集し、物語りを描き、生命誌の一幕を作っていきたいと考えています。