生命誌はゲノムに書かれた生命の歴史物語を読みとき、生きているのはどういうことか、私たちはどこから来て、どこへ行くのか、自然とは何かという日常の問いに向き合っています。実際には、生命の歴史性、共通性、多様性に注目して研究を進めているのですが、その中でこれまでの数式・定量による理解が科学であるという枠に疑問が生まれました。そんな時、自然は数式と言語と図像で描かれているという言葉に出会い、これだと思い、今年のテーマは「語る」です。
トークのお相手、望遠鏡すばるを通しての宇宙の物語を語る小平さんは古くからの友人。新しい知に向けて共に歩んでいます。リサーチは地球に描かれた縞から物語を読みとる安田喜憲さん。人類の未来を考える新しい学問に燃えています。大村敬一さんのイヌイトの話はまさに「語り」を考えさせます。ササラダニと40年の青木淳一先生の自然への愛情と地道な学問の進め方は、多くの方に知って頂きたい「語り」に満ちています。(中村桂子)
TALK
理解と価値をつなぐ
研究を通して
語る科学
CARD
語る
人間の知的活動は、自然という書物を読もうとするところから始まりました。その中で科学は、数学という誰もが納得する方法で自然のもつ秩序を示してきました。しかし、研究が進むにつれて、秩序の奧にある混沌が見え、そこにふしぎがたくさんあることがわかってきました。宇宙、地球、生きもの、人間。それぞれが持つ、矛盾をも含んだ秩序を知るには、対象を分解し尽くそうとせずに、言葉やイメージの持つ力を活かして「語る」ことが必要だろうと思うのです。生命誌は生きもののもつ歴史物語りを語る知です。細分化した科学ではなく、自然そのものを知る「知」を創り出す第一歩がここにあります