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Special Story

DNAを描き出す

正確に研究を表現したい
─ 意味のある絵をつなぐ:工藤光子

生命誌研究館は"科学のコンサートホール"。今回は、映像を使ってDNAの構造と働きの一部を"演奏"することにチャレンジしました。まだまだ演奏は手探りですが、舞台裏にはそんな私達を支えてくれた多くの人たちの協力がありました。 「コンピュータグラフィックス DNAって何?」ができあがった過程を皆さんも一緒にたどってみてください。


 DNAを映像にすることになった。私たちの体の中で、DNAはどんなふうに存在し、どのように働いているのだろうか?細胞の中を覗けたらと思う人はたくさんいると思う。私もそんな一人である。せっかくのチャンス。小さくなった自分が細胞の中に入って実際の動きを見ているような映像を作りたいと思ってスタートした。

最初は細胞やDNAの写真を使おうと思った。本物にまさるものはないのだから。しかし、それは研究者の目にしかわからないということがわかった。電子顕微鏡で撮影したDNAの二重らせん構造も解説なしでは何が何だかわからない。しかも、そのDNAは、細胞を壊し、DNAだけを取りだして撮影のためにポーズを取らせたものだ。これは私が作りたい映像ではない。

 

DNAの二重らせん(松木洋)

教科書の図やイラストはDNAの動きを一瞬止めて描いたもの、これを上手につないだら、どうなるのだろう。資料を元に、頭の中で既存のイラストをつないで動きを知ろうとしたところ、矛盾や疑問が出るわ出るわ・・・。この道も行き詰まりだった。結局たどり着いた道は、細胞の中のどこで、いつ、何が起きているのかを思い描き、一枚一枚意味のある絵を自分で作り、それをつないでいくことだった。実際やってみると新しい問題の続出で、嘆いたり悩んだりした。研究で明らかにされていることの間は想像でつなぐしかない。

ところが、ここで発見をした。この作業をやると、ここがこうなっていないとおかしい!ということが見えてくるのだ。細胞の中には必ず時間、空間がある。時間軸の前後をつなぐと見えてくるもの、空間を考えたら見えてくるものがあるのだ。そして、こうに違いないと考えたことが、仮説という形で論文に出ていた時には本当に嬉しかった。イメージを作るという方法で科学的な発見をしたと言ってもよいのではないだろうか。

嘘のない映像を作りたいので、研究者の方にたくさんお話を伺った。研究者は実験の根拠がないことを記述したり図にすることを極端に嫌う。事実以外を語らない。しかし、今回の仕事をやり終わった今、私のような外野が想像力を働かせることで、何かが進むと厚かましくも思っている。

最近の生物学が対象にしていることは目に見えないものが多い。だからそこから導き出される概念や考え方を専門外の人が共有するのは難しい。しかし、共有できれば誰にでも面 白いものだし、それを知ろうとするところにまた新しい発見があるのだ。私は研究の世界に転がっている面 白い概念や考え方をすくって、つないだつもりである。しかし、私がすくっただけでは共有できない。イラストレーター、音響、CG 制作者・・・、何人もの人のたくましい想像力で、見えないDNAが表現された。これからも科学的に意味のある情報がスムーズに流れるように、人と人とをつないでいきたいと思っている。科学が人と人をつなぐ時、それぞれの人にとっても、大きな意味があると思うのである。成果は研究館で展示している。ぜひ、ご覧になって意見を聞かせてくださると嬉しい。

(くどう.みつこ/本誌 )

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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