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シーラカンスの夢

米良実紀子

宇宙の中の,銀河の中の,太陽系の中の,地球の中の,海の中の,シーラカンスやオウムガイやウミユリやイソギンチャク。そのイソギンチャクの中のオウムガイやウミユリやクラゲ。パーツとパーツが揺れて絡み合うパズリングな夢の世界……。


夜,すべての部屋の電気を消し,机上の小さな明かりをつける。すると日常私を取り巻いているタンスや本棚,掃除機などのガラクタどもはすべて闇の中に溶け込み,手元30cm四方の空間だけがオレンジ色の光に包まれ浮かび上がる。そして分厚い図鑑を取り出しペ一ジをめくる。

ところで私には変な癖がある。水が溜まっているのを見つけると,ところかまわずのぞき込むのである。雨上がりの水溜まりやむき出しの水路,川や池はもちろんだが,果てはバケツに溜まっている水までのぞき込まなければ気がすまない。濁ったり,緑色になった水の中には必ず決まって何かが生きて動いている。

じっとじっと見つめていると私の意識は水中を浮遊する。枯れ草の上にうっすらと積もっている泥の中のタニシのようにはいずり回る。タニシの巻き上げた泥の粒に溶け込み,身をくねらせまとわり付く微生物になる。こんなとき,人は昔,水の中にいた記憶を取り戻しているのだろうか。私たちの体の中に脈々と受け継がれてきた太古の記憶,見たことも感じたこともない記憶を取り戻そうと必死でもがいているのだろうか。かつて私たちがアメーバだったころの記憶を……。

①ウミユリの内緒話(クラゲ)

ページをめくり続けると,パラオオウムガイが暗闇の中に浮かんでいる。5億年前もの昔,三葉虫やウミユリと共に繁栄し,海の王者となったそのままの姿を今にとどめているオウムガイ。日中,海底深く潜み,夜になると小動物を捕獲するため,隔壁の間に貯めたガスを調節し自由に海面近くまで浮上してくるそうである。こわいほど静まり返った古代の海面にプカプカと浮上してきたオウムガイたちは,降りそそぐような星を見つめ何を考えていたのだろう。何を見つめていたのだろう。もし,オウムガイが夢を見るなら,昔海流に揺れていたウミユリや砂を巻き上げ突き進む三葉虫を思い出し,記憶として夢としてたどるのかもしれない。カイメンの見る夢,太陽虫の見る夢,キイロウミウシの見る夢,そしてシーラカンスの見る夢。

②深海の月夜に唄う(オウムガイ)

木でパズルをつくりだして3年目になる。まだまだ作家としては卵だ。電動ノコギリでくねくねと切り取られたウミユリやウミエラ,イソギソチャクやヒトデたちに色や模様を描き込んでいく。かわいくてかわいくてしかたがない。油絵や版画などいろんなことをしてきたが,やっとここまでたどり着いた。

 あら,もうこんな時間だ。夜は遅い。今日はここまでにして明日また続きを見よう。

今度は私が夢を見るのだ。

(上段左から)
忘れられた夢(タツノオトシゴ)、ムカシトンボのかなたに(カブトガニ)、ウミエラの涙飛び散った(クラゲ)
(下段左から)
ふらりふらふら(ウミユリ)、僕のたどりつく夢(オウムガイ)、夢を運んで(ヤドカリ)
(写真=赤木賢二)

米良実紀子(めら・みきこ)

1965年大阪府生まれ。京都精華大学洋画科卒業。中学校美術講師。生徒教材としてつくり始めた木彫パズルの魅力にとりつかれ,独自のデザインを始めた。95年と96年に個展《木のパズル展》を開催。

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